諸々ファンタジー5作品
炎雨
罪悪感が求める解放を願う
村を呑み込んだ燃え盛る炎。
それは上空へと舞いながら熱風を巻き起こす。
その光景で自然の力を目の当たりにし、恐れも通り越したのか、諦めや死の覚悟とは違う穏やかさ。
何もかも忘れ、この炎に身を委ねて…………
小さな飛び火が降り注ぐ。
炎の量は次第に増え、痛みが自分の罪を赦すような切なさの中
……炎雨…………
ゴールデンウィークの初日、最悪の夢で目覚める。
そして操作された記憶があるのを実感し、ベッドに起き上がって大きなため息を吐いた。
きっと相多君や智士くんも同じなのだろう。
あの異常気象の雪の日以来、代は何の力を用いたのか、私たちは前世に悩まされることなく穏やかな日々を送っていた。
二度と在り得ない日常。
時計を確認し、代たちとの待ち合わせ時間までに用意を整える。
穏やかな日々の中、代は私たちを別荘に誘った。
何も覚えていない私たちは休みの遠出になるお出かけに浮かれ、楽しみにして準備を進めていたのに……
せめて、思い出すのは着いてからにして欲しかったな。
代は私たちを見て何を感じ、どう思ったのだろうか。
シロは代とは違う。
彼女も私と同様、現世を生きる別の人格を持ち、何かに抗って生きている。
繰り返すことを望まず、幸せを得る事を願い。
きっと……もっと、ちがう未来…………
前世で、何も知らずに生きていたジキとサチ、そしてイチシ……
当時シロが何か告げたとしても、誰も信じなかっただろうか。
過去は変わらない。変えられないんだ。
足掻くことの出来る今、すべてを知って答えを出さなければいけない。
前に進む為、現世を生きる為に。
時間が来て、インターホンの音が響く。
荷物を持って玄関のドアを開けた。
門の前には信じられない高級車が停まっていて、代がいつもと変わらない穏やかな笑顔で乗るようにと勧める。
境遇の差に唖然。
車の中は、運転席が見えないように仕切られ、一つの部屋のようになっている。
こんな車、本当に存在したんだ。
テレビや漫画で見たことはあるけれど、それを自分が体感するとは思ってもいない。
「どうだ幸、ビックリしただろ?」
車の中が慣れてしまっている智士くんは、得意げに話しかけてきた。
「お前の車じゃないだろ。」
私ではなく、居心地の悪そうな相多君が冷たく答えるので笑ってしまう。
「ふ。ビックリしたけど、慣れている智士くんの方が面白い。」
敵だった智士くん……
これから知るもう一つの前世で、死ぬ間際……私は、あなたを呪うほどの憎しみを宿したと言うのに。
前世が今を揺らすことは有っても、覆すことは無いのだと思える。
私が椅子に座って少しの沈黙の後、車はゆっくりと走り出す。
そして代は重い口を開いて、私たちに視線を配る。
「憎しみが募るとしても、これから知るのは前世の出来事……過去の出来事を変えることは出来ない。だけど、知って欲しい。繰り返さないために……シロより前に存在した魂に刻まれた記憶。私の前世はアスター。」
……魂を揺さぶる様な衝撃と、酔いのような気持ち悪さ。
罪悪感がかつてない程に高まり、闇に落ちるような無感覚。
「ゅ……き、幸!大丈夫か?」
遠くから呼び覚まされるような感覚で、声のする方に目を向けた。
重なる映像。
あぁ、私が裏切った愛しい人……涙が溢れ、零れて止め処なく流れ落ちていく。
「ごめんなさい。」
すべてを思い出せそうなのに、それを拒否するように留めようとする何か。
自分の中での葛藤に、ついていけない。
謝罪した私に、相多君は悲しみを交えて微笑んだ。
「どうして謝るの?君は……幸自身が、俺に何か悪い事でもしたのか考えてみて。」
私自身……何も、していない?
そうだけど違う。前世を気にするあまり私は。
「幸、私がシロの願いを、この現世に持ち込んだのが間違いだったのかもしれない。
シロの時代も場所も状況も今と同様、過去とは違う。シロは、彼らに前世を告げなかった事を後悔していた。イチシの心を変えることは出来なかったとしても、一時的な幸せを、もっとジキやサチに与えられたかもしれないと。」
シロの願い。
きっと出逢った時の違和感に、ジキは何かを納得してシロの言葉を受け入れたかもしれない。
シロの……兄様への信頼に、サチは疑わなかっただろう。
例え、ジキを受け入れるのが困難な時だったとしても。
自分の気持ちの変化に戸惑いながら、今の私よりも素直に受け入れたかもしれない。
シロの不思議な力を見れば尚の事。
では今は?
前世の話が、ある程度の認識として備わった現代。
私たちは、過去の記憶を受け止めきれていない。
今の自分さえ、先の不透明さに足掻いて生きなければならないのに。
変えられない過去を背負って、それに生き方を左右される。
前世の記憶が、何の得になる?
生まれ変わって、願った物が手に入るとは限らない。
「代、私たちの生まれ変わりは意図的な物なの?あなた言ったわよね。『私たちのケースは稀』だと。」
代は唇を噛み締め、そこには穏やかな笑みは無く、悲しみに染まった表情が後悔を告げる。
「……アスターは、どれほどの力を持っていたんだ?シロにも力があったから、今の俺達があるんだよな。」
口を開いたのは相多君。
智士くんは、何かを言おうとして口を閉ざす。
代が涙を浮かべ、無理した笑顔を向けたから。
「私は、この記憶に感謝したわ。……魂に刻まれた、繰り返される天性の希死念慮。それを止(とど)めるのは、罪悪感。
自分に幸せを与え、絶望に染まった彼女を幸せにしたいと願い、死を覆すほどの愛しさに生きる希望。
ごめんね。」
私たち全てが背負う前世の記憶を与え、苦しめるのが目的ではなく……それは私の幸せの為。
『守護する』と私に誓った代の決意。
智士くんは、私たちに罪悪感があると言った。
私の内にあるのも罪悪感。
きっと相多君は、その罪悪感を受け止めてくれるだろう。
前世と同様、いつの時代も変わらないから……だから私は…………
罪悪感が求める解放を願う
村を呑み込んだ燃え盛る炎。
それは上空へと舞いながら熱風を巻き起こす。
その光景で自然の力を目の当たりにし、恐れも通り越したのか、諦めや死の覚悟とは違う穏やかさ。
何もかも忘れ、この炎に身を委ねて…………
小さな飛び火が降り注ぐ。
炎の量は次第に増え、痛みが自分の罪を赦すような切なさの中
……炎雨…………
ゴールデンウィークの初日、最悪の夢で目覚める。
そして操作された記憶があるのを実感し、ベッドに起き上がって大きなため息を吐いた。
きっと相多君や智士くんも同じなのだろう。
あの異常気象の雪の日以来、代は何の力を用いたのか、私たちは前世に悩まされることなく穏やかな日々を送っていた。
二度と在り得ない日常。
時計を確認し、代たちとの待ち合わせ時間までに用意を整える。
穏やかな日々の中、代は私たちを別荘に誘った。
何も覚えていない私たちは休みの遠出になるお出かけに浮かれ、楽しみにして準備を進めていたのに……
せめて、思い出すのは着いてからにして欲しかったな。
代は私たちを見て何を感じ、どう思ったのだろうか。
シロは代とは違う。
彼女も私と同様、現世を生きる別の人格を持ち、何かに抗って生きている。
繰り返すことを望まず、幸せを得る事を願い。
きっと……もっと、ちがう未来…………
前世で、何も知らずに生きていたジキとサチ、そしてイチシ……
当時シロが何か告げたとしても、誰も信じなかっただろうか。
過去は変わらない。変えられないんだ。
足掻くことの出来る今、すべてを知って答えを出さなければいけない。
前に進む為、現世を生きる為に。
時間が来て、インターホンの音が響く。
荷物を持って玄関のドアを開けた。
門の前には信じられない高級車が停まっていて、代がいつもと変わらない穏やかな笑顔で乗るようにと勧める。
境遇の差に唖然。
車の中は、運転席が見えないように仕切られ、一つの部屋のようになっている。
こんな車、本当に存在したんだ。
テレビや漫画で見たことはあるけれど、それを自分が体感するとは思ってもいない。
「どうだ幸、ビックリしただろ?」
車の中が慣れてしまっている智士くんは、得意げに話しかけてきた。
「お前の車じゃないだろ。」
私ではなく、居心地の悪そうな相多君が冷たく答えるので笑ってしまう。
「ふ。ビックリしたけど、慣れている智士くんの方が面白い。」
敵だった智士くん……
これから知るもう一つの前世で、死ぬ間際……私は、あなたを呪うほどの憎しみを宿したと言うのに。
前世が今を揺らすことは有っても、覆すことは無いのだと思える。
私が椅子に座って少しの沈黙の後、車はゆっくりと走り出す。
そして代は重い口を開いて、私たちに視線を配る。
「憎しみが募るとしても、これから知るのは前世の出来事……過去の出来事を変えることは出来ない。だけど、知って欲しい。繰り返さないために……シロより前に存在した魂に刻まれた記憶。私の前世はアスター。」
……魂を揺さぶる様な衝撃と、酔いのような気持ち悪さ。
罪悪感がかつてない程に高まり、闇に落ちるような無感覚。
「ゅ……き、幸!大丈夫か?」
遠くから呼び覚まされるような感覚で、声のする方に目を向けた。
重なる映像。
あぁ、私が裏切った愛しい人……涙が溢れ、零れて止め処なく流れ落ちていく。
「ごめんなさい。」
すべてを思い出せそうなのに、それを拒否するように留めようとする何か。
自分の中での葛藤に、ついていけない。
謝罪した私に、相多君は悲しみを交えて微笑んだ。
「どうして謝るの?君は……幸自身が、俺に何か悪い事でもしたのか考えてみて。」
私自身……何も、していない?
そうだけど違う。前世を気にするあまり私は。
「幸、私がシロの願いを、この現世に持ち込んだのが間違いだったのかもしれない。
シロの時代も場所も状況も今と同様、過去とは違う。シロは、彼らに前世を告げなかった事を後悔していた。イチシの心を変えることは出来なかったとしても、一時的な幸せを、もっとジキやサチに与えられたかもしれないと。」
シロの願い。
きっと出逢った時の違和感に、ジキは何かを納得してシロの言葉を受け入れたかもしれない。
シロの……兄様への信頼に、サチは疑わなかっただろう。
例え、ジキを受け入れるのが困難な時だったとしても。
自分の気持ちの変化に戸惑いながら、今の私よりも素直に受け入れたかもしれない。
シロの不思議な力を見れば尚の事。
では今は?
前世の話が、ある程度の認識として備わった現代。
私たちは、過去の記憶を受け止めきれていない。
今の自分さえ、先の不透明さに足掻いて生きなければならないのに。
変えられない過去を背負って、それに生き方を左右される。
前世の記憶が、何の得になる?
生まれ変わって、願った物が手に入るとは限らない。
「代、私たちの生まれ変わりは意図的な物なの?あなた言ったわよね。『私たちのケースは稀』だと。」
代は唇を噛み締め、そこには穏やかな笑みは無く、悲しみに染まった表情が後悔を告げる。
「……アスターは、どれほどの力を持っていたんだ?シロにも力があったから、今の俺達があるんだよな。」
口を開いたのは相多君。
智士くんは、何かを言おうとして口を閉ざす。
代が涙を浮かべ、無理した笑顔を向けたから。
「私は、この記憶に感謝したわ。……魂に刻まれた、繰り返される天性の希死念慮。それを止(とど)めるのは、罪悪感。
自分に幸せを与え、絶望に染まった彼女を幸せにしたいと願い、死を覆すほどの愛しさに生きる希望。
ごめんね。」
私たち全てが背負う前世の記憶を与え、苦しめるのが目的ではなく……それは私の幸せの為。
『守護する』と私に誓った代の決意。
智士くんは、私たちに罪悪感があると言った。
私の内にあるのも罪悪感。
きっと相多君は、その罪悪感を受け止めてくれるだろう。
前世と同様、いつの時代も変わらないから……だから私は…………
罪悪感が求める解放を願う