カスオくん
スーパー丁稚人デビュー
CDデビューもハリウッドデビューの野望も空しく打ち砕かれてしまい、
変わりに僕を待っていたのはヘビーワークライフの上をゆくフルタイムウルトラ丁稚ライフになってしまった。
24時間御主人様の身の回りの世話をし、すべての雑用をこなすスーパー丁稚人。

さらにあの日から永島は僕の事をカスと呼ぶようになった。

僕の名前は下に”オ”が付くと付かないでは大きく意味合いが変わってしまう。

このままでは「世界に一人だけのカス」だ。

だが何度お願いしても二度と永島君は”オ”をつけてはくれなかった。
つられて皆も面白がってカスと呼ぶようになり、やがてその名は不動のものとなった。

敗北から呼び名までも変わってしまったがいつまでも嘆いてばかりはいられない。
屈辱をバネに這い上がって行かなければインターナショナルな人間には成れない。
人間には状況の変化に素早く対応する臨機応変さが必要だ。

変わり身の早い僕は丁稚の道を極めようと決心した。

依頼された用件(命令)を素早く(確実に)こなし、ご主人様の信用(御加護)を得て、なくてはならない存在となる。
その恩恵として外敵から身を守ってもらう。
生き物として力の無い者が歩むべく合理的な道を僕は進もう。
・・・と固く心に決めたものの奴の付き人は決して楽ではなかった。

外科手術の如く”汗”といえばさっとハンカチで拭き、グラスを傾けるしぐさをすれば飲み物を差し出す。
首を一回振れば肩を揉むといった具合に御主人様からは目が離せず、
そのサインを一度でも見逃してしまうと
太いコブシで米噛みを両方から力任せに押さえてくれるのである。

学校が終わってからも永島が通う道場同行し、道着の出し入れから着替え中は背中の汗をバスタオルで拭き飲食代のすべてをおごってあげたり払ってあげたりした。

そんな一途な僕に御主人様もたまに「カスオ、腹減ってないか?」と優しく声をかけてくれ
唐辛子一本も含んだ真っ赤に染まったうどんを一滴も残さず食べさせてくれた。



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