カスオくん
おそらく赤ずきんちゃんを待つ、お婆さんに扮した狼もそうであったであろう。
森のクマさんだって”花咲く森の道”で出会っていたから理性を保ち「お嬢さん、お逃げなさい」と言えたのだ。
ここが学校帰りという町中の歩道でなく、森の中の獣道であればオカメは間違いなく本能の赴くまま押し倒されている。
こうしている間にも奴の口から、綺麗に巻かれ収納された消火ホースのような舌が降ろされオカメの身体をそのまま包み込んで行きそうだった。
だいたい小学6年生にもなってパンツを見せて歩いているオカメにも問題がる。
あれは明らかに挑発行為だ。

こちらを向きながら手を振り去って行くオカメの今後に暗雲が立ち込め不安が広まった。
その不安を裏付けるように永島は僕の方をみて何やら微笑んだのであった。

コイツが微笑む時は僕に真っ赤なうどんを食べさせてくれたりする時である。
つい先日も僕の顔を覗き込み微笑んだかと思うと「人間魚雷~」などと叫びながらプールに投げ込まれてしまった。

奴が思わず微笑みたくなるような楽しい行動は、僕にとって命を賭けた悲惨な行為なのである。

「カス君、これからも仲良くしようぜ」と永島は太い腕をマフラーのようにからませ微笑んだ。

「カス君て呼ぶぐらいならカスオ君って呼べよ」と僕は心の中で静かに呟いた。
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