カスオくん
世界一の策士
一人になり、我に帰るとさすがに空しかった。
体育館裏の池のほとりまで歩き、我ながらいつもの変わり身の早さに恐れいっていた。

歩くリトマス紙は身の危険を感じるとナリ振り構わず変色してしまう特性を持っているらしい。

その悲しい性からドライブスルーのお姉さんように笑顔で快く引き受けてしまったが、
覗きという今回のミッションを成功させる自信は全くなかった。
果てしなく、そして限りなく自分だけが可愛い事は棚の上の方に上げてしまい、
すべては「NOと言えない日本」が悪いんだと足元の小石を思い切り蹴飛ばした。

しかし勢いよく飛んで行ったのは小石ではなく、おもいきり空振ってしまった僕の右靴だった。唖然とする僕を後ろに最愛の右靴は鬼太郎の下駄のように旋回しながら戻って来てはくれず、「ポチャン」と寂しい音をたてながら沈んでいった。

思わず「天は我々を見放した~」と一人で叫び、その場に大の字になって寝転んだ。

目を閉じて僕は「世界一不幸な中学生だ」などと嘆きながらも、頭の片隅では安全に御主人様を手引きする為の策略を練り始めるもう一人の僕がいた。

家の中は無理だな、やはり覗きは外から行うのが正統派だな。
(正統派の意味が良くわからんが・・・)

暗闇の中じっと息を潜め、全神経を眼球に集中させ秘密の花園を楽しむ、
それが覗きの醍醐味だ。
(醍醐味の意味も良くわからん)

まずは誰にも見つからずあの巨体をお風呂場の外まで安全かつ速やかに誘導する、そして覗きを行う位置、さらに見張り役の僕の立ち位置・・・ 中々の難問だ。

変わり身も早いが気持ちの切り替えも早い。
つい先ほどまで世界一の不幸者と落ち込んでいた男は妹の入浴シーンを他人に見せる罪悪感のカケラも無くし、世界一の策士と様変わりしていた。
むしろ策を練る事に生きがいさえ見出している様子だった。
策士は目を閉じたまま頭の中の見取り図に進入経路、実行役、見張り役と豪華キャストの配置を描いていた。

一番見つかっちゃいけないのは父さんではなく、姉さんだ。そう、やはり姉さんだ・・・
犬の数倍の嗅覚を持つと言われる姉さんの攻略・・・ 

攻略・・・ メデューサ・・・ サッポロ・・・
ロシア・・・ むにゃむにゃ・・・。

策士はそのまま深い眠りへと落ちて行った。


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