カスオくん
暗闇の取引き
なんとそこにはマラオ兄さんという先客がティッシュを抱え潜んでいたのだ。

「カッ カスオくん、なにやってるんだいこんなところで?」

「にっ兄さんこそティッシュを箱ごと抱えて何やってるの?」
と見つめ合った二人に沈黙という時が流れた。

そして暗黙の内に取引は交わされた。共通の目的を持った者同士、お互いのテリトリーを犯さず、そして余計な事は口にせずと言うことで交渉は成立した。
交渉成立にはマラオ兄さんのサイフから、僕のポケットの中の住人と転居した福沢の諭吉さんが最大の功労者であったのは言うまでもない。

マラオ兄さんめ、毎晩「健康のため少し歩いてくるよ」なんて外出していたのはこのためだったのか。

どうやら御中元の箱を振っただけで中身を見抜くのが特技なだけの男じゃなさそうだ。

そうなるとかなり前から秘密の花園の観覧を楽しんでいたに違いない。
その証拠にティッシュ箱ごと持参という手際の良さだ。

「マラオ兄さん・・・ 中々の曲者だ」、ヤツも伊達にメディーサの旦那をやっていないな。

やがて小学生の女の子の風呂場を覗くという世間的には実にくだらん目的の元に集まった男どもはそれぞれの立ち居地におさまり、役一名を除いて息を潜めた。
そしていよいよその時がせまっていた。

それに従い永島の鼻息は以前にましてひどくなり慌てたマラオ兄さんが
「カスオくん、君の友達もっと静かに出来ないかな? これじゃ中にいるオカメちゃんに気付かれてしまうよ」と耳打ちしたきた。
確かにこのままじゃオカメはおろか父さん達にも見付かってしまう。

「永島、もうちょっと静かにしてくれよ」
とヤツの耳元で囁いたが一向にお構いなしだった。
僕は思い切ってヤツの耳を引っ張り正気に戻そうとしたが、振り向いたその目はスロットマシンのように激しく上下に回転しており思考停止状態だった。
覗きという卑猥な行為をひたすら待ち焦がれ、待ちに待ったその瞬間が目前にせまった興奮からヤツの頭脳はオーバーヒートしたに違いない。

その時だった、
誰かが裏庭を通り抜けこちらに向かっている気配がした。


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