カスオくん
メデューサ
やがてその日は訪れた。
透き通った青空だ、そして頬打つ心地よい風に草木も踊り、世の中の気の流れすべてが僕に味方している。
予習復讐・・・ 
じゃなくて復習も完璧だ。目を閉じれば悪を叩きのめした僕が観衆の声援に応え手を振っている。

そう!僕はヒーローだ、悪を倒した英雄なんだ。

よし、決めた! CDデビューしよう。事務所はもちろんアイドルの宝庫ジャニーズ。
だいたい僕は一度空想の世界に入ってしまうと中々戻ってこれない癖がある。
記念すべきデビュー曲は

「世界に一人だけの英雄(ボク)」

そうと決まれば今晩からサインの練習やらと忙しくなるぞ。
ジャニーズに入るとなるとこの坊主頭もここらで卒業かな。
などと思いッキリ空想に耽っていると、遠く現実という名の下界から僕を呼ぶ声がした。

「カスオちょっとお願い!」

僕をカスオファンタジーワールドから下界へと引きずり戻したのはササエ姉さんの叫ぶ声だった。

嫌な予感がする・・・ 

いつも決まって幸福の女神が僕に微笑みかけると姉さんという邪魔が入る。
今回もまたそうだ。
空想の世界で僕はあらゆる新人賞を総ナメにし、ハリウッドデビュー寸前まで行っていたのにまたしてもメデューサの邪魔が入った。

「何だよ姉さん、僕は忙しいんだよ」

と面倒くさそうに話しかけると台所で洗い物をしていた姉さんは振り向きもせず「ちょっとお使いに行ってきてよ」とだけ言った。

「お使い? ダメだよ。僕はこれから忙しいって言ってるじゃないか。お使いならオカメに頼んでよ」




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