百万人の愛を選ぶか、一人の愛を選ぶか〜ロボットの選択〜
「ミカエラ!今日もよかったよ!近々新しい曲を作ろうと思ってるんだ」

後片付けをしながら、カイが笑う。

「ありがとうございます。新しい曲、歌えることを楽しみにしています」

しかし、新しい歌をカイが作ることはなかった。それはカイにとって悲しいことが起こったからだ。

「……ミカエラ……カイ……」

ベッドの上で、弱々しく咳をしながら、ポールが枕元で見守る二人に話しかけた。

一年ほど前から、ポールはずっと体調を崩していた。しかし今回は今まで以上にひどい状態だ。

頰はこけ、太い指の手は震え、水もまともに口にしていない。

「おじいちゃん、何?」

カイが無理矢理笑顔を作ってポールに訊ねる。その目には涙が浮かんでいた。

「ワシは…もう生きてはいられん…。だが、ずっと見守っておる…。だから、何があっても生きるんじゃぞ。……ミカエラ、カイを……頼む……」

「おじいちゃん!?おじいちゃん!!そんなこと言っちゃダメだ!!おじいちゃん!!」

目を閉じたポールは、もう二度とその目を開けなかった。

カイの目から、涙があふれていく。声にならない声を上げながらカイはポールを抱きしめ泣いた。

ミカエラは、何も言わずに泣くカイを見つめた。なぜ目から水が出ているのだろう?そんなことをミカエラは考えていた。

多くの人が、ポールの死を悲しみ、涙を流す。ただ一人、ミカエラは泣かずにポールのお葬式に参列した。

泣かないミカエラを見て、人々はロボットなんだと痛感した。プログラムされたことしかわからない。泣くということが何かわからない。涙が何かわからない。そもそも、悲しいという感情すらないのだ。
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