未知の世界6
処置したベッドを離れて他のベッドを見てみるけど、ジャクソン先生、見つからないな。
一体どこに…。
ふと待合の方を見ると、長身の金髪の医師が膝をついて誰かと話している。
「あれ?」
近づくとジャクソン先生が待合の患者を診ているところだった。
『かな、来たね。ストレッチャー持ってきてくれる?』
そう言われて周りを見渡し、近くに置かれたストレッチャーを急いで持ってきた。
『ありがとう。すぐに開頭オペをしよう。』
脳に疾患があるのか、待合で座る人からよく見つけられたものだ。
近くの看護師にオペの準備をお願いして、ジャクソン先生の後ろについていった。
『かな、一緒にやるよ。』
「分かりました。」
ジャクソン先生が走ってオペ室に向かうので、私も急いで向かった。
それから何時間も経ち、一体今アメリカは何時なのか夜なのか、それとも朝が来たのか…腕時計も日本の時刻のままで頭も体もボーっとしながら休憩室の椅子に座っていた。
『おはようございまーす。』
聞き慣れた声の方を向くと、
『おはよう、かな。』
何ヶ月ぶりかのたけるがいた。
『久しぶりだね、昨日来たんだよね。』
空港についてからずっと英語の世界にいたのに、日本語を話すたけるの声を聞いて、救われた気がした。
急患に追われて今が何時かも分からず、ボーっとしていた私は、たけるを見てようやく現実世界に戻ってきた。
「たける〜!」
海外の力なのか、近づいてきたたけるに思いっきりハグをすると、たけるも私の心境を理解してくれたのか、力強くハグをしてくれる。
『昨日は忙しかったようだね。』
「うん、これからなのにかなり疲れた。」
『大丈夫、すぐに慣れるよ。』
そのあと私はたけるから今の時刻を聞いて時計を直し、それから救命での朝の仕事を色々教えてもらった。
各国から研修に来ているけど、朝から他の先生や医局のことを準備するのは日本人くらいらしい。
そう聞いたら尚更やらなくちゃと思ってしまう。
『たぶん今日は寮に帰れると思うよ。
昨日来た人でも、もう帰ってきてた人もいるから。』
「えっ!そうなの!?」
『うん、昨日来た一陣目のメンバーは、日本から来た研修メンバーの中でも一番の若手だから、ここの病院側もいきなりこき使ってきてるらしい。
だけど、その後来たメンバーはここの先生方と変わらないレベルだから、それなりにカリキュラムもあって、丁寧な扱いみたいだよ。
救命で研修するのは若手だけ。』
「ぇえっ!?知らなかった。
まぁ、確かに全員が救命ともなると大変なことだし。
あ、それで研修メンバーは一陣の情報しかなかったんだ。」
『そういうこと。担当の先生は誰?』
「ジャクソン先生」
『またすごい人に当たったね。』
「すごいことは分かったけど、どんな人?」
『まぁ、すぐわかると思うけど。
人は優しいよ。でも仕事には厳しいかな。そして患者の体だけじゃなくて仲間の心身に対してものすごい敏感な人かも。
僕が研修中に風邪引いただけでも声をかけてきてくれるような人だよ。』
あらあら、どうしてそういう人が私に…。
『かなのこともたぶん情報は耳にしてると思うよ。』
「そうかな?」
私の専門を把握してなかったのに。
『まぁ、決して悪い先生ではないし、むしろ当たりなんじゃないかな?』
「そうだ、たける。たけるが帰国前にお願いがあるんだけど。」
それから私はたけるに自分の両親のことを話した。
『分かったよ。
でもそれはこの生活に慣れてからにした方がいいかもしれないね。』
「うん、私もそう思う。」
そうでないと研修にならないかもしれないから。