未知の世界6

『怖い夢でも見たの?』





聴診器を片付けながらジャクソン先生が聞いてくる。






「怖くはないんですけど…。






先生から聞いたことを思い出すと…。





父と母の話は今まで避けて来たので。」






『そっか…まだ早かったかな。』






「いえ、あの場所に居ることができたことは、とても嬉しかったです。ただ…いろんなことが私の知らないところで起きていて、それを考えると悲しくもなってきて…不安にもなってきて…







とにかく自分で整理できなくて。」






『そっか…。それ以上のことはもう言わないよ。君から聞きたくなったらいつでもおいで。






教えてあげるから。』






そう言いながらジャクソン先生は私を抱きしめた。







「……ふふ、先生はここに来て初めてお会いしたのに、とても身近な人みたい。」







そういうとジャクソン先生は私の顔を見て






『そりゃ、そうだよ。




だって、君がお腹にいる時に、君のお母さんのお腹を触らせてもらったこともあるんだからね。』






そうなんだ…そう思うと、先生にもっと抱きしめてほしくて…





それはなんというか、好きとかそういうのではなく、
お父さんのようなお兄さんのような、そんな存在で。






そうすることで、お父さんとお母さんを身近に感じることができそうだから。







それに応えてか、ぎゅっと抱きしめていてくれるジャクソン先生。







そんな和やかなムードの中…。






「ゲホッ…ゲホゲホゲホゲホ……。」






あ…こんな時に出てしまった。






「ゲホゲホゲホゲホ、ゲホゲホゲホゲホ…」






『落ち着いて…かな。ゆっくり息を吸って』






「ゲホッゲホッゲホッゲホッ」






うまく息が吸えない…。







『えっと、吸入は…』






そうだ、今日処方してもらった袋の中に…






『あったあった。






はい、吸ってー』






スーーーー





吸ったと同時に





プシュッ






と薬が入ってくる。







「はぁはぁはぁはぁ」






しばらくして咳が治り、洗面台で口をゆすいだ。






『吸入を処方しておいてよかったよ。




薬が切れることは日本からも連絡があったから。』






そっか…お父さんか孝治さんが電話くれたんだ。






久しぶりの本格的な咳に、少し落ち着いてきた。






『最近、発作は出てた?』





「いえ…咳が出ることがあっても、発作は全く。」






『そうか…やはり薬を飲まなかったらだからかな。』





すっかりジャクソン先生のそばが落ち着いた私は、先生のそばに自ら座っていた。






先生もそれが分かっているのか、隣で背中をさすってくれる。







今日は本当に疲れた…。





そんな私を見ていたのか、






『かな…このまま寝なさい。夜起きれたら食事をして、遅くなければ送っていくよ。





でも大学の隣と言えども、ここはアメリカだから、夜に歩くことはよした方がいい。






起きれなかったら、朝早くに起こすから、寮に一度帰ってそれから明日は出勤しよう。』






「ありがとうございます…。」






『シャワーだけ浴びたら?』






まだ体力的に大丈夫そうだと思い、シャワーに入ると、ジャクソン先生が大きいけどと言って服を貸してくれた。






確かに大きいけど、裾はまくればなんとかなった。





ただ、痩せた私にはかなりぶかぶかで…。






『ハハ、今にも脱げそう。』





そう言いながら、袖を上手に巻き上げてくれる。





『寝る前に薬も飲んでね。』






そう言って水も用意してくれて、タオルで髪も拭いてくれる。





こんなことまでしてもらっていいのかと思うくらい、ジャクソン先生は何でもやってくれる。






「先生は優しいんですね。」





と言うと






『大親友の娘だ。自分の娘のように感じてるよ。』





そう言うと後ろから抱きしめて、頭にキスをするジャクソン先生。





アメリカに来て環境に慣れて来たからなのか…ハグや挨拶のキスが当たり前のようにできるようになっていた。





そして髪を乾かしてもらいながら…私は眠りに落ちていた。







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