未知の世界6
『先に本題に入ろうか』
リビングに着くなり、キッチンに向かおうとする私に進藤先生が声をかける。
「は、はい。」
幸治さんはダイニングの椅子に座る。
進藤先生はソファに座っていたので、私は進藤先生と幸治さんの真ん中ら辺まで足を進めた。
『どうかな?体調は。』
いつものようにゆっくりと私に話しかける進藤先生。
「自分ではいつもと変わりないです。
今日の吸入も、研修前と変わらないような結果でした……。」
『食事は摂れてる?』
「……いえ。オペが終わったのが15時で。結局時間なくて……。」
『じゃあ薬は?』
「薬は飲むことができました。それだけは……と思って、ゼリーと一緒に。」
『飲めたなら良かった。
ゼリーしか食べてないことは問題だけど、なかなか難しいよね。
それで、今後の研修のことだけど…』
「やりたいですっ!やらせてくださいっ。」
『うん、そうだね。そうしようと思ってる。幸治くんとも話してね。』
そう言うと幸治さんと目を合わす進藤先生。
何か重大なことを言われるのではと、身構えてしまう。
『土日は休みって聞いたよ。
その休みは、必ず家で吸入と幸治くんの診察を受けてもらいたい。』
そんなこと……か。
「分かりました。」
『そしたら、明日僕から椎名先生に連絡しておくから。』
「よろしくお願いします。
そしたら私、先にご飯とお風呂の準備しますね。」
もうこの話は終わったと安心してると……
『メシはいいから。買ってきたし。
風呂は俺がやるから、とりあえず進藤先生から診察受けて。』
うっ!だからうちに来たのか……。
『まぁ、そんなに落ち込まない落ち込まないっ!』
進藤先生に励まされながらソファに腰掛けた。
『じゃあ、胸の音聞くね。』
帰ったままのスーツ姿で、カッターシャツのボタンを少し外すと、同じようにスーツ姿の進藤先生がいつのまにか手にしていた聴診器を耳にはめて、聴診を始めた。
深くゆっくり呼吸する。
進藤先生の慎重な聴診に、まっすぐな眼差し。
恥ずかしくて見ることができず、目を背ける。
『はい、終わったよ。
まぁ、雑音もいつもの感じだよ。
たぶん、かなちゃんの肺の音を聞いてない人は…驚くかもね。』
そうだろうね、岡本先生も椎名先生もそうだったし。
『まぁ、とりあえず毎日吸入して、休みはゆっくり体を休めようね。』
進藤先生に優しく声をかけられ、研修は続けられることに嬉しく思えた。