未知の世界6
トントン
「はい。」
ご飯を食べて部屋で寝ていると、ノックの後に入ってきたのは椎名先生。
慌てておき上がろとすると、
『そのままでいいから。
横になって。』
言われた通りに再び横になる。
『幸治から頼まれたんだけど』
と言いながら手にしてる物は……
第一病院からかりてる吸入……。
『そんな顔するな、やっておかないと明日も休まなくちゃならなくなるぞ。
自分の体は自分が一番よく分かってるんだから、一番大切にしてあげなきゃな。』
なんか珍しくもっともらしいことを言う椎名先生。
『はい。』
渡されたマスクを渋々顔にはめる。
心の準備もなく押されたスイッチ。
「ゲボッゲホッゲホッ。」
思わず仰向けの体を横に向けて咳き込む。
「ゲホゲホゲホゲホゲホ」
吸入は本来咳を鎮めるための薬を入れて、それが蒸気となって気管に入り込んでいく。だから咳を鎮める効果があるのに、私はこの匂いや気管を刺激さらた感じがたまらなくて、咳を誘発してしまう。
薬は体に効いてるらしいけど。ここまで咳き込むと不安になる。
普段の態度からは考えられないくらい優しく背中を撫でられる。
『ゆっくり、ゆっくり呼吸して。
そう、吸ってー吐いてー。』
意外な一面に驚きながらも、後ろからの声に合わせて呼吸する。
それでも咳は治らない…
吸ってー吐いてー。
気持ちが落ち着いたところで、呼吸も落ち着いてきた。
『そうそう、上手、上手。』
背中から感じる温もり。
吸入が終わる頃には睡魔に襲われていた。