未知の世界6
『佐藤さーん、入りますね。』
看護師が部屋に入ると、ベッドには盛り上がった布団。
机には氷嚢が置かれていた。
『佐藤さん、お顔出しましょうね。』
掛け布団をそっと開けると、額に汗をかいたかなが眠っていた。
布団を外して、頬を確認する。
頬、というよりも耳から左顔面が真っ赤に膨れ上がっている。
腫れた頬を手で触るとほのかに熱い…。
額に手をやると、頬よりも熱く感じられ、持っていた体温計を脇に滑り込ませた。
汗を拭き取り、顔にマスクをはめると吸入を開始する。
「ゲホッ……ゲホッゲホッ。
ゲホッゲホッゲホゲホッ」
寝ながらも咳き込み続ける……。
数分後に吸入が終わり、測定していた体温計を確認すると、微熱……。
指につけている酸素濃度は93を指している。
微熱もあって、咳き込んでいるので酸素マスクを用意していると。
かなが起きた。
目を開けてすぐにマスクに手をかけて外し始める。
『佐藤さん、少し息苦しくなっているので、マスクをしててくださいね。』
と言い終わる前に、かなは唸りながらマスクに手をかける。
『ダメですよー。』
看護師が止めるが、かなは聞く様子がない。
「あぁ……
ぃやっ!」
『付けましょうねー』
力強く看護師がマスクをはめようとすると、かなは大きく手を振り暴れ始めた。
「ゃめてっ!!!」
何を言っても聞き入れないかなの様子が、尋常ではないと判断して看護師はナースコールする。
『佐藤かなさん、暴れてます。どなたかお願いします!
担当の佐藤先生にも連絡を!』
かなはマスクだけでなく、近くの氷嚢や点滴台までも倒し、腕に刺さっていた点滴が勢いよく外れた。
「やめてって言ってるでしょ!」
こちら側の言うことは聞く耳を持つ様子がなく、嫌だの一点張り。
応援に来た看護師もかなの体を抑えるが、なかなか抑えられない。
『かなちゃーん、どうした?』
落ち着いて入って来たのはお父さんだった。
『どうした、どうした?』
優しくベッドに座って、かなに正面から向き合う。
「やっ!あっ!アーーーーーー!!!!!」
両耳を押さえて叫ぶかな。
そこでかなの耳に異変を感じ、
『耳鼻科の先生にすぐ来てもらって!』
看護師に指示する。
PHSを取り出して、耳鼻科に連絡する。
かなに声はかけず、優しく正面から抱きしめて落ち着かせると、力が抜けたようにかなは再び眠りについた。