未知の世界6
『では良い方の耳から見せてください。』
すぐに駆けつけた耳鼻科医の診察が始まった。
診察中に起きることも考えて、頭の両手をガッチリ抑えて始まった。
右耳を先に診察し始めた先生が、
『あれ?こっちって良い方だよね?』
『はい。』
『…………こっちの鼓膜、傷ついてる。
ファイバーで診てみようか。』
ファイバースコープを耳穴に入れて何枚か写真を撮る。
『次は左耳だね。』
そう言いながら耳穴を診ると、
『あ〜結構、炎症してるね。これは熱も出る訳だ。
それに、しっかり破れてるねー。』
鼓膜が破れていることを確認したようで、こちらもファイバーで写真撮影。
『薬塗っておくね。三日後の午後に
外来がないから、また来るね。』
院内でも古巣だろう風格の耳鼻科医は、器具を片付けながら説明する。
『この子の右耳は、過去に何度か鼓膜が破れたことがあるのかな?
初めて破れた感じではないような傷つき方だよ。
左耳もそんな感じだけど。今回左耳を強打したんだよね。』
『はい、そうです。』
かなの頭を上に向けながら答える。
『う〜ん、ストレスから破れやすくなった鼓膜が炎症して、左耳の強打と一緒に破れてしまったのかな……?
結構珍しいことだけど、そう言う人もいるようだよ。
たぶんこの状態だと、ほとんど聴こえてないね。』
『そうでしたか……。今さっきも大暴れして。』
『そうだろうね。耳が突然聴こえなくなった人は、今まで聴こえてた分、情報が耳から入って来なくなって、パニックに陥ってしまうんだよ。
目だけの情報で何かされると、水の中で溺れて息ができなくなってしまうように、声をかけてこちらが動いても、動きだけで責められたようになって、全力で拒否してしまうんだよ。
辛いだろうね。鼓膜が修復されるまでは点耳薬を出しておくね。それから化膿止めも。
大きな声を出しても聴こえにくいだろうから、あらかじめ伝えたいことを紙に書いておくといいよ。
熱も上がらないようにしてあげてね。』
『ありがとうございました。』
丁寧に説明した耳鼻科医は、ゆっくり立ち上がると部屋を後にした。