未知の世界6
それから数日が経った。
私が一人になることを望んだからか、お父さんが部屋に常駐することも、知り合いの先生が訪れることもなかった。
ただ毎日静かに過ごしていた。
耳が聴こえてないと、動きが消極的になってしまう。トイレ以外ではどこにも行かず、必要なものは幸治さんがたまに届けてくれる。
私にはなにも話しかけずに帰る。
屋上での出来事もあって、どう接していいか分からないから、それでいいんだけど。
ただお父さんが常駐しないから、食事は適当に切り上げればいいと思っていたけど……それは違った。
食事はお父さんが運んできて、その間だだけは、食べ終わるまで静かに部屋にいる。
免れると思ってたのに…。
もう一つ免れることができると思ってたことがある。
吸入……。耳が聴こえてなくても、吸入はむしろ必要だからと、毎日二回もやらされた。
耳鼻科の先生が途中で診察に来てくれて、まだ耳は回復していなかった。
いつまでもこのままだったらという不安と、このままでもいいや、と思ってしまう自分がいた。
このまま人に関わらないでいいのなら、そうしたいと……。
その想いは叶うことなく、二度目の診察の翌日から熱もしっかり下がって、気付いたら少しずつ聴こえるようになっていた……。
そんなことは周りは知らない。
だから、あえて聴こえないフリをしてみる。
その方が楽だから。
『それじゃあ、診察を始めようか。』
と三度目の診察の時。
私と耳鼻科の先生の二人になった。
付き添いの看護師さんは、診察に必要な物を取りにナースステーションへ。
お父さんは緊急のオペだとかでいなかった。
耳鼻科の先生が両耳を診終わると、私の顔をじっと見て言った。
『佐藤さん、もう聴こえてるでしょ。』
あ……バレてる。
先生はスケッチブックも出さずに声に出して言ってきた。