未知の世界6
『僕からは言わないから、自分で先生方に言うんだよ。
みんな君を信じてるから。必ずね。』
そう言って、もう診察の必要がないと判断したのか、看護師が戻る前にカートを引いて先生は部屋を出ていった。
「バレちゃった……か。」
自分の発する声もハッキリと聞こえる。
ただ久しぶりに声を出すので、声がかすれている。
耳が治ってホッとした気持ち半分と、また始まる治療や検査、そして入院生活を思うと気分が上がらない。
早く終わらないかな…。
そう思いながらトイレに行くため部屋を出た。
『ガシャンッ!!!』
大きな音が聴こえて、思わず音のする方を見てしまった。
そして慌てて顔を前に向けた。
あ…………。
がシャンと音を立てたのは、ご飯を運ぶ荷台からした音で、何かが倒れた訳でもなく、いつもしている音だった。
ただ久しぶりに聞いたから、体がすごく反応してしまった。
それよりも、反応してしまい顔を向けた方に……
荷台の奥に……
患者さんに寄り添って歩く幸治さんがいた。
そして慌ててトイレの方を見る。
なぜこの階にいるのだろうか……。
担当していた患者にしては子供ではなく大人だったけど。
色々と余計なことを考えてはみたけど、最後は気付かれたのかな。
私の耳が聞こえるってこと……。
目は合わなかったけど、こちらを見ていた気もする……。
まだ治ってから会ってないし、耳鼻科の先生も言わないと言っていた。
もしさっきの私に気づいてたとしても、きっとまだ怒られない気もする。
こんなタイミングで会ってしまうとは。
頭を抱えながらトイレを出てくると、さっき音を立てていた荷台が、私の部屋まで来ていた。
どのくらいトイレにいたんだろ……。
そんなことはどうでもいいことだけど、さっきのことが頭を離れないから、違うことを考えてみた。