未知の世界6

そしてお昼ご飯は喉を通るわけもなく……
食事の時間が終わる頃、看護師さんがやってきて、スケッチブックに書いてあるページを見せてきた。






〜今から小児科の会議室へ行ってください。







小児科の?会議室?






小児科の……会議室。






一般患者が立ち入ることができない会議室……。





あぁ……





これなら何が起きるのか、考えなくても十分だった。







いつも肩に掛けているカーディガンを持っていくことも忘れて……部屋を後にした。







あぁ……どうしよう。
絶対に耳のことだ……。
切り出される前に言えば……なんとななるかもしれない。




小さな望みにかけて……。










トントン





『どうぞ』





会議室の中から聞こえるそっけない声。




入るのを一瞬躊躇してしまう。これはまさしく幸治さんの声。





「・・・失礼します。」





声がかすれている。





ドアを開けると、椅子に座ってドアに背を向けた幸治さんがいる。






私はただドアの前でつっ立っていた。





『座って』





そう言われても足が前に動かない。だって、幸治さんすごい冷たいんだもん。





態度も言葉も・・・その幸治さんの前に座るなんて、できない。





『早く座って。聞こえてるんだろ。』




若干キレ気味。これは早いところ謝らないとやばいやつ。





「ご、ごめんなさい」





その場で謝る。




『早く座れっ!』




ヒャッ!!




つい怖くて、手を頭の上に置いてしまった。





座れと言われても、幸治さんの怒号を聞いて足どころか、体も動かない。






椅子に座るか、このまま立ち去るか・・・。





「クシュン!」





冷房のよく効いた会議室は、ものすごく冷えてくしゃみをして、いつものカーディガンをしていないことに気づいた。




『なんで黙ってたんだよ。』





しびれを切らしたのか、幸治さんが私の方を振り返り、椅子から立ち上がって、やってくる。





思わず座り込んでしまった。





「あ、、、、、、、、、、、あの。ごめんなさい。」







声もあまり出していないので、枯れた声で謝るのに必死。





『だから、なんで早く言わないんだよ。
聞こえるなら中断してた治療だってできるんだぞ。早く退院したくないのか?』





座り込んだ私と同じ目線になるように、幸治さんも腰を下ろす。





それがどうしようもないくらい私に追い打ちをかけ、両手で頭から顔を隠した。





『おい、聞いてるだろ?』






そう言われて、私の手に幸治さんの手が伸びる。





「ごめんなさい。」





ビクッとするたびに、若干胃がキリっと痛む。





気づくと泣いていた。






『もういいから、部屋にいけ。』





そういうと、幸治さんが立ち上がり、会議室をあとにした。





私は何に怯えているのか自分でもわからず、キリっとする胃を抑えて、しばらく会議室のドア前で座り込んだ。







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