未知の世界6

ベッドに横になってみると、胃は何ともなかった。
立ち上がると痛いのかな…?
自分で診断する限りには胃炎だと思う。
少し安静にしていれば、何とかなると思う。





若干額に汗が出る自分を、深呼吸で落ち着かせて。





「スーーーーハーーーーー」





そのまま横になっていた。







『入るよー。』






いつもの調子で入ってきたのはお父さん。





孝治さんと同じように怒ってるに違いない。






『どう、調子は?』







「はい…もう大丈夫です。」






耳は聞こえてますと、言うべきかやめるべきか…。






『かなちゃん、もっと早く教えてよ。』






「えっ?」





『耳のこと。』







あ、やっぱり。





「すいません…」






『耳が聴こえてるって、後から知って少し寂しかったよ。もっと早く、かなちゃんの口から聞きたかった。』






真っ直ぐな目で私を真正面から見つめるお父さん。





「すいません…。」







『どうして?早く教えてくれなかった?』







最後は強めに聞こえる、たぶん怒ってるに違いない。
でも抑えてる……。







「………聴こえないと分かっていれば、話しかけられることもなくて…その。






気持ちが楽でした………。







ごめんなさい。






施設から引き取ってもらって、ここまでしてもらってきたのに。






ごめんなさい。」
















入院して長い時間を一緒に過ごしてきたからこそ言える。私の心のうち。






お父さんはショックだったのか、少しの間何も喋らなかった。









『謝らなくてもいいんだよ。






今までお父さんも強引な時があったんだから。





ハハ…嫌にもなっちゃうよね。』









『いや…、その嫌だなんて思ってませんよ。






そうでなくて、耳が聴こえなくなって、最初は怖かったけど、静かに過ごせたことはとても心を休めることができました。』








だんだんとお父さんが落ち込んでいくようにも思えるけど。
それと同時に私の胃はズキズキが止まらない。人を気にかければ気にかけるほど…。





今のお父さんにはこれ以上心配かけられない。





そう思うと必死で我慢する。






『ありがとう…気持ちを教えてくれて。
今までなかったことだから、お父さん嬉しいよ。』






そういうといつものお父さんに戻って、私の顔を両手で挟むと額にチュと、キスをした。






こういうところが欧米なお父さんは、私が真っ赤になってることなんて気づいてない。






『じゃあ、聴こえるようになったから、今までの治療を続けようねっ。』







さらに明るくなるお父さんに、やっぱり少しは耳が聴こえることを黙っておいて良かったと思う。
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