未知の世界6
ガチャ
リビングの扉を開けるとお母さんもお父さんもそして孝治さんもソファでくつろいでいた。
『かなちゃん、退院おめでとう。』
とお父さん。今朝まで病院で毎日顔を合わせていたので、おめでとうと言われてもピンと来ないけど。そのお父さんが私を見るなり、こちらにおいで、と手招きをする。
いつもならすんなり歩み寄るところだけど、隣には孝治さんがいて、なんとなく躊躇する。
『かなちゃん、ご飯を食べて。』
お母さんが台所に立ち上がるところで、
「あ…いえ。食欲なくて…。それより口をゆすいできます。」
やんわりお父さんの手招きもお母さんの食事の声かけも交わそうとしてみた。
『ダメだ。こっちにこい。』
それを素早く察知した孝治さんに瞬殺される。
渋々お父さんの隣の空いたスペースに近寄り、座る。
孝治さんの一言と私の無言に、どことなくリビングの雰囲気が気まづくなる。
『熱はなさそうだね。』
私の額に大きな手を当てて、頬を両手で挟むと
『うん、大丈夫。
とりあえず、ご飯を食べなよ。』
とやんわり孝治さんが次に言いそうなことを、先にお父さんが言ってきた。
「は…い。」
食欲がないのは事実だけど、お父さんの言うことくらいは聞かないと…。
再び渋々と歩き出し、テーブルに向かった。
『入院中もたいして食べれなかったみたいだし、今日はお粥にしてみたわ。』
「ありがとうございます。」
お母さんのお粥はシンプルなのにとても美味しい。
匂いも食欲をそそる…
「いただきます。」
手を合わせて小さく呟いて、手元のれんげを手にする。
お茶碗のお粥をれんげですくって口に…。
うん、美味しい…。
やっぱりお母さんのお粥なら食べれる。
気づくとほとんどなくなっていた。
そのお茶碗を見てお母さんも嬉しそう。
『食べられて良かったわ。』
「ご馳走様でした。」
軽く胃の辺りが重くなった気がしてお腹に手を当ててみた。
大丈夫そう。
帰ってきてご飯しか食べてないのに、もう疲れた。
こんなことでは仕事復帰はまだまだな気がした。
洗面台に行って歯を磨き、部屋に戻るとすぐに眠りについた。