未知の世界6
『実はな………。
かなのお父さんとお母さんは、かなと同じ医者をしていたんだ。そして、二人が結ばれる前、アメリカで働いていた。
そこがメイソー病院だ。』
「え!?え!?」
『前に留学したときは、限られたところでしか仕事をしてないから気づかなかったと思うし。そんな余裕もなかっただろうから、言わなかったけど。
実はメイソー病院で二人は日本人医師として、とても大きな功績を称えていて、講堂や医局、ロビーなんかに名前付きの写真やどんなことをしたのか、書いてあるんだ。』
そんなすごい人だったの…。
私の中の記憶にお父さんとお母さんは全くいない。
もう忘れてしまっている。
思い出せるのは、孝治さんが大きな家にいたこと。
『かな、大丈夫か?』
「はい…。前にアメリカに行ったときにお父さんとお母さんのいた病院にいて、そばに近づけていたのに、全く気づかなかった……。」
『まぁ、それはしょうがないし、その当時に聞いても受け入れられなかっただろ?』
そう、たぶんそんな余裕がなかっただろうし、傷ついてた過去から数年しか経っていなかったし。
「はい…。受け入れられなかったと思います。」
『だよな。
お父さんとお母さんはすごい人だったんだぞ。だから、しっかりとそれを見てこい。
だけど、一つ心配がある。』
「?」
『お父さんとお母さんの写真を見て、不安になったり悲しくなったり、するかもしれない。』
確かに…。
『だからな、見るときはたけるくんを連れて行くか、かなの知ってる人が一緒に留学するから、その人と見に行くんだ。』
「え?たける以外に私の知ってる先生?」
お父さんがカルテを送ると言った人かな?
「誰ですか?」
『それはアメリカに行けば分かる。同じ飛行機かどうかは分からないからな。』
そう、飛行機には何便かに分けて乗ることになっている。他のお客さんの迷惑にならないように。
『大丈夫か?』
考え込んでいた私に孝治さんが声をかける。
「はい。自分でもどうなるか分からないと思います。けど、最近よく昔のことを知りたい自分もいて。」
『あぁ、余裕ができてきたんだろうな。』
「お父さんとお母さんが死んでしまったことは、悲しいけどそれはどんなに悔やんでも仕方のないことです。だけどお父さんとお母さんのことを一つでも知ってみたい気持ちは止められないので、頑張って見てきます。」
『そうだな。』
そういうと孝治さんは私の頭を撫でた。
『一人で抱え込まないで、辛くなったら連絡しろよ。時間なくてもメールくらいできるからな。』
そう耳元でささやく孝治さんは、とても優しい言い方。
「はい、余裕があったら。」
『ハハ、余裕ができるまでずっと先だろうけどな。まぁ留学中の出来事はちょくちょく日本にも様子が連絡されるから。何かヘマしてもすぐに伝わるけどな。』
「えー!そうなんですか?それは嫌だな。」
そういうとまた孝治さんは笑顔で笑った。
こんな風に話せるのも、一年後になってしまうかと思うと、ここ数ヶ月の生活を悔やんだ。
もっと話してれば良かった。
そう思っても遅いけど、また帰ってきたらいっぱい話そう。
そんなことを思いながら、前夜を過ごした。