未知の世界6
そして旅立ちの日…。
『向こうに着いたら連絡してね。』
涙目で私の両手をしっかり握るお母さんに、私まで涙が出そうになるのを堪える。
『お袋、大丈夫だって。他の先生もいるし、寮に入るんだから。』
孝治さんが落ち着かせる。
『あぁ、私も留学についていける手筈を組むんだった。一年なんて思ってもみなかったよ。』
悔しそうに、そしてどんだけ甘いのお父さん。
「ありがとうございます。連絡も取れる時はします。
一年は長いですが、頑張ってきます。」
『かなちゃん、無理しないでね。頑張らなくていいのよ。』
『いや、これから始まるのに頑張らなくていいだなんて…』
お母さんの言葉に呆れる孝治さん。そんなやりとりもしばらく見られないと思うとちょっぴり寂しく思う。
『まぁダメになったら帰ってこればいいからな。』
あっさりした言い方の孝治さん。
「はい、でもダメになるまで頑張ります。」
『いや、ダメになる前に帰ってきなさい。』
そう言い終わらないうちにいつもよりきついハグをするお父さん…。
「う……うぅ。」
『親父、やめろって。かなが死ぬだろ。』
すかさず止めに入ってくれる孝治さん。
そんなことをしていると、場内のアナウンスでアメリカ行きの搭乗手続きが始まったと放送された。
『さぁ、行ってこい。』
孝治さんに肩を撫でられ、改めてこの家族に感謝の気持ちで頭を下げた。
「行ってきます!」
そう言って振り返り荷物を持って搭乗ゲートに向かうと、後ろからは何度も体に気をつけるのよ、連絡するのよー。と少々恥ずかしい声で見送られるけど、時折振り返りながら手を振り返してみた。
帰るところがあることが、改めて心を温かくした。
大丈夫。みんなが待ってくれてるから。
そう思いながら日本を飛び立った。