恋じゃない愛じゃない
「陽央くん、かわいい」

「そんな、」

恥ずかしそうに顔を真っ赤にするところも尚だった。

濡れてピンクになった白目を見ると、体の芯から熱くなる興奮と背徳感、もっともっと味わいたい。

カッと瞼を開いて網膜に焼きつけたら、変顔になってたらしく、陽央くんは吹き出した。
「わたし陽央くんの目が、好き」

世の中に存在しがたい純粋さを、わたしは彼の目の中に感じとった。

「目?」

「うん、果汁100パーセントのジュースみたい、雑じり気のない」

「よくわからないけど……、嬉しいです。ごめん。なにもわかんなくて」

「んーん、ぜんぜんいいよ」

触れるだけのキス。何度も角度を変えて豚むように、最後に額に唇をつける。

「安田さん、優しい」

「名前、呼んでよ」

「……レイカ、さん」

まるで壊れ物を扱うみたいに、慎重に、優しく、呼ばれた。

それから、深く口づけられる。今度は最初にした、押し付けるだけじゃない、吐息さえも奪われそうで、苦しく、なにもかもが根こそぎにされるような。身体も、思考も、自分の全存在さえも、このまま熱に浮かされていればいい。

「麗花(れいか)」と陽央くんの声だけがわたしの中に満ちていく。


先にシャワーを済ませ、ベッドに寝そべってテレビをつけてると、ちょうど世界の絶景特集がやっていたのでそれを観る。

程なく、バスローブを着て、洗面所から出てきた陽央くんは、顔をぱたぱた手で扇ぎながらソファに座る。

「寝ないの? ベッドで」

「実はちょっと照れてて」

「いまさら? べつにソファがいいならそこでいいけど」

「あっ、いえ、そこは、来てもいいよってちょっと言ってほしかったんですよ」

「めんどくさっ」 わたしは笑った。

「いいよ、来ても。許可する」

彼は、失礼します、とまだ遠慮がちに、そろりそろりとベッドに近付き、アッパーシーツをめくって、わたしの隣に体を横たえた。

「いい匂いします麗花さん」

「苗字で呼べや、年下」

「あ、すみません、失礼しました。安田さん」

「よし。きみだって同じでしょ。いい体してたね、陽央くん」

「全然そんなことありませんよ。恥ずかしいです、貧弱ボーイで」

彼は華奢な体に見えるが、抱き合ったとき、張り詰めたような筋肉で覆われているのがわかった。影で努力して鍛えているタイプかもしれない。肌の感触は、みずみずしくて、サテンみたいになめらか。わたしよりも白いのが、憎たらしいが。

わたしは元々地黒で肌質もよくなく、色素沈着もしやすいし肌も弱い。顔は油でベタベタなのに体は乾燥で掻いたりしてしまい、服を脱いだときに目立つ黒ずみがいくつかあるし、胸元や背中はブツブツと毛穴が開いて汚い。

そんなものは、枕元のパネルをいじり、部屋を暗くして隠す。オレンジがかった間接照明が、独特の空間を作り出していた。

天井には星を模した電球が付いていて偽りの星空が広がっているが、幾つかは切れたままになっている。
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