恋じゃない愛じゃない
一通り見終わると、わたしは喫茶店に帰還し、本を読んでるあの人を見つけて、ジュースとホットケーキを食べる。
そのホットケーキ、外側はカリっとしていて、中はふっくら熱々。
なにもつけなくても、小麦粉と卵の甘さが強烈で、メープルシロップは要らなかった。バターのしょっぱさが、ホットケーキの甘さとよく合わさって、本当に美味しかった。
そのホットケーキの卵は、園内にいるダチョウの卵を使っているんだと信じて疑わなかったあの頃と、変わっていないのは、いまでもメープルシロップはつけないこと、わたしにはどうも甘すぎてしまうから。
今日の冷凍のホットケーキにもメープルシロップがついていて、使わないので、コーヒーに入れてみたが、やっぱり、ちょっと甘すぎて苦手だ。でも、また時間を置いて飲みたくなる、ちょっとクセのあるコーヒーになった。
ホットケーキは、解凍したのをこんがりトーストするのがいい。
外側のカリカリ、これはホットケーキの美味しさの半分以上を占めると、わたしは感じているし、美味しさのために一手間は惜しまない。
ちょっと行儀が悪いけれど、フォークで突き刺して、アツアツ言いながら食べるのが個人的に贅沢な食べ方。フォークで突き刺して食べると、まるで分厚いベーコンをがっついて食べるジブリアニメの主人公っぽくて楽しい。
──その動物園で、とても印象に残っている出来事がある。
いつものように園内を一周し、喫茶店に行くと、あの人はいつものように本を読んではいなかった。
「えっとぉ、ブレンドコーヒーを2つ」
「いえ、私コーヒーは飲みませんので」
「あ……、じゃあ紅茶を2つお願いします」
ピシャリとした声により、いつものようにコーヒーを頼まなかった、あの日。
あの人の向かい側に、もうひとり、誰かがいた。
わたしは咄嗟にハッとなって、テーブル席の仕切りに身を隠した。
「あっ、ミルクも付けてもらえますか?」と店員に言うあの人の声は、「わたしコーヒーはブラック派だけど、紅茶はミルク入れないと飲めないんですよね」と続く。
仕切りの上には観葉植物なのだろうか、細長い葉が生い茂った植物が植えられて、その間からあの人たちを見ることで、わたしはまるで探偵になった気分でドキドキしたのを覚えている。
あの人と向かい合って座っていたのは女性で、顔が小さく、痩せていて、鳥のくちばしのように尖った鼻に、猫みたいな、つり上がっている目が、ちょっと意地悪そうなのを、さらにキツくさせるのは、髪が高い位置で結われて纏められていたから。
まあまあ美人ではあったが、かなり気の強そうであり、ピンと張った背筋や髪型、顔のパーツ、表情に至るまでの全てが、刺々しい印象の人だった。
「あのぅ……お忙しいところすみません」
囁いているような弱々しい中に、切ないような甘さを孕んだ声は、あの人だ。
「こちらこそ、なかなかちゃんとお話し出来ませんですみません」
同じ、「すみません」でも一方は抑揚がなく堂々とした声。
あの人は、ぽっちゃりしているのに、背が低いので華奢に見え、それゆえに、ちょこちょこ小さい歩幅が、なんというか、「一生懸命で、可愛い人」として同性も異性も認識してしまうのだ。
丸い鼻が少し上向き加減の愛くるしい顔立ちと、少女のような無邪気さやおっとりとした喋り方。
おかしいくらいに、対照的な2人だった。
そのホットケーキ、外側はカリっとしていて、中はふっくら熱々。
なにもつけなくても、小麦粉と卵の甘さが強烈で、メープルシロップは要らなかった。バターのしょっぱさが、ホットケーキの甘さとよく合わさって、本当に美味しかった。
そのホットケーキの卵は、園内にいるダチョウの卵を使っているんだと信じて疑わなかったあの頃と、変わっていないのは、いまでもメープルシロップはつけないこと、わたしにはどうも甘すぎてしまうから。
今日の冷凍のホットケーキにもメープルシロップがついていて、使わないので、コーヒーに入れてみたが、やっぱり、ちょっと甘すぎて苦手だ。でも、また時間を置いて飲みたくなる、ちょっとクセのあるコーヒーになった。
ホットケーキは、解凍したのをこんがりトーストするのがいい。
外側のカリカリ、これはホットケーキの美味しさの半分以上を占めると、わたしは感じているし、美味しさのために一手間は惜しまない。
ちょっと行儀が悪いけれど、フォークで突き刺して、アツアツ言いながら食べるのが個人的に贅沢な食べ方。フォークで突き刺して食べると、まるで分厚いベーコンをがっついて食べるジブリアニメの主人公っぽくて楽しい。
──その動物園で、とても印象に残っている出来事がある。
いつものように園内を一周し、喫茶店に行くと、あの人はいつものように本を読んではいなかった。
「えっとぉ、ブレンドコーヒーを2つ」
「いえ、私コーヒーは飲みませんので」
「あ……、じゃあ紅茶を2つお願いします」
ピシャリとした声により、いつものようにコーヒーを頼まなかった、あの日。
あの人の向かい側に、もうひとり、誰かがいた。
わたしは咄嗟にハッとなって、テーブル席の仕切りに身を隠した。
「あっ、ミルクも付けてもらえますか?」と店員に言うあの人の声は、「わたしコーヒーはブラック派だけど、紅茶はミルク入れないと飲めないんですよね」と続く。
仕切りの上には観葉植物なのだろうか、細長い葉が生い茂った植物が植えられて、その間からあの人たちを見ることで、わたしはまるで探偵になった気分でドキドキしたのを覚えている。
あの人と向かい合って座っていたのは女性で、顔が小さく、痩せていて、鳥のくちばしのように尖った鼻に、猫みたいな、つり上がっている目が、ちょっと意地悪そうなのを、さらにキツくさせるのは、髪が高い位置で結われて纏められていたから。
まあまあ美人ではあったが、かなり気の強そうであり、ピンと張った背筋や髪型、顔のパーツ、表情に至るまでの全てが、刺々しい印象の人だった。
「あのぅ……お忙しいところすみません」
囁いているような弱々しい中に、切ないような甘さを孕んだ声は、あの人だ。
「こちらこそ、なかなかちゃんとお話し出来ませんですみません」
同じ、「すみません」でも一方は抑揚がなく堂々とした声。
あの人は、ぽっちゃりしているのに、背が低いので華奢に見え、それゆえに、ちょこちょこ小さい歩幅が、なんというか、「一生懸命で、可愛い人」として同性も異性も認識してしまうのだ。
丸い鼻が少し上向き加減の愛くるしい顔立ちと、少女のような無邪気さやおっとりとした喋り方。
おかしいくらいに、対照的な2人だった。