恋じゃない愛じゃない
仕事終わりはいつも顔がベタベタしている。そのせいか、肌荒れが治らない。
あついところにいて汗をたくさんかく長時間(仕事をしている何時間か)ほうっておくことで蒸発した油が汗と混じって、その状況をさらに悪化させているのはあるかもしれないから対策として、休憩中に汗拭きシートなどでしっかり拭いたり、水を飲んで出来るだけさらさらした汗をかくようにしているが、一向に改善されず悩んでいる。
排気ダクトの掃除をやると、1日でどれくらい油が散っているかがわかる。体全体に、油や料理の匂いが染み付いていた。動き回るから足腰も痛い。
もうしばらくは接客の仕事をしたくないから、という理由だけで裏方のキッチンの仕事を選んだのが、そもそも甘かった。手を切る、火傷はしょっちゅう。仕事中は忙しすぎて疲れを感じる暇もないけれど、 休憩や仕事終わりに座ったときに一気に疲れを感じて、もう二度と立ち上がれないんじゃないかと思う。
店の裏口から外に出ると、目線の先にホールスタッフ、キッチンスタッフ、男女数人が入り交じり、団子のように固まって騒いでいるのが見えた。金曜日の夜ということで、どうやらこれから飲みに行くらしい。
職場の飲み会なんて、ろくなものじゃない。4、5千円は軽く飛んで、薄い酎ハイやサワーに、衣ばっかりの唐揚げ、べしょべしょのフライドポテトを摘まむだけなんて見合わない。そんなことなら美味しいご飯をプライベートで楽しみたい。
一番の理由が、無駄に時間を拘束されることだ。業務時間でもないのに上下関係を半ば強要させられるうえ、飲み会のマナーなんて、女性が隣だと嬉しいから、隣に座って、なんなら膝に乗るぅ? などとキャバ嬢の代わりにされるのに、ヘドが出る。
団子の中に、彼はもちろんいた。
目が合う。すると陽央くんはぱっと笑顔になって、こちらへ歩み寄ってくるではないか。
「安田さんも来てくれますよね?」
と陽央くんはわたしを見下ろした。だいぶ身長差があるから、見下ろさざるをえないのだ。
白く輝く八重歯。
「わたしは、」
そんないい笑顔で問われたら、いいえを言えるわけがない。
居酒屋での陽央くんは、明るく、気さくで人見知りせず、初対面と思しき相手ともすぐに打ち解けていて、コミュニケーションという言葉がそのまま人間になったみたいだった。そんな人が自分の隣に座っているのだから皮肉なものだ。
わたしは油っぽいフライドポテトを咀嚼し、二酸化炭素の味しかしないハイボールを喉に流しながら、その様子を観察した。
笑う、驚く、感心するなど、相手の話す内容に大げさに反応する彼が、「陽央くんは元気がいいねぇ」と言われ、「はい! 元気しかないです!」と答えたことによりドッとみんなの笑いが弾ける。
あついところにいて汗をたくさんかく長時間(仕事をしている何時間か)ほうっておくことで蒸発した油が汗と混じって、その状況をさらに悪化させているのはあるかもしれないから対策として、休憩中に汗拭きシートなどでしっかり拭いたり、水を飲んで出来るだけさらさらした汗をかくようにしているが、一向に改善されず悩んでいる。
排気ダクトの掃除をやると、1日でどれくらい油が散っているかがわかる。体全体に、油や料理の匂いが染み付いていた。動き回るから足腰も痛い。
もうしばらくは接客の仕事をしたくないから、という理由だけで裏方のキッチンの仕事を選んだのが、そもそも甘かった。手を切る、火傷はしょっちゅう。仕事中は忙しすぎて疲れを感じる暇もないけれど、 休憩や仕事終わりに座ったときに一気に疲れを感じて、もう二度と立ち上がれないんじゃないかと思う。
店の裏口から外に出ると、目線の先にホールスタッフ、キッチンスタッフ、男女数人が入り交じり、団子のように固まって騒いでいるのが見えた。金曜日の夜ということで、どうやらこれから飲みに行くらしい。
職場の飲み会なんて、ろくなものじゃない。4、5千円は軽く飛んで、薄い酎ハイやサワーに、衣ばっかりの唐揚げ、べしょべしょのフライドポテトを摘まむだけなんて見合わない。そんなことなら美味しいご飯をプライベートで楽しみたい。
一番の理由が、無駄に時間を拘束されることだ。業務時間でもないのに上下関係を半ば強要させられるうえ、飲み会のマナーなんて、女性が隣だと嬉しいから、隣に座って、なんなら膝に乗るぅ? などとキャバ嬢の代わりにされるのに、ヘドが出る。
団子の中に、彼はもちろんいた。
目が合う。すると陽央くんはぱっと笑顔になって、こちらへ歩み寄ってくるではないか。
「安田さんも来てくれますよね?」
と陽央くんはわたしを見下ろした。だいぶ身長差があるから、見下ろさざるをえないのだ。
白く輝く八重歯。
「わたしは、」
そんないい笑顔で問われたら、いいえを言えるわけがない。
居酒屋での陽央くんは、明るく、気さくで人見知りせず、初対面と思しき相手ともすぐに打ち解けていて、コミュニケーションという言葉がそのまま人間になったみたいだった。そんな人が自分の隣に座っているのだから皮肉なものだ。
わたしは油っぽいフライドポテトを咀嚼し、二酸化炭素の味しかしないハイボールを喉に流しながら、その様子を観察した。
笑う、驚く、感心するなど、相手の話す内容に大げさに反応する彼が、「陽央くんは元気がいいねぇ」と言われ、「はい! 元気しかないです!」と答えたことによりドッとみんなの笑いが弾ける。