ネェ、オレヲアイシテ?Ⅲ~Promise or Secrets~
「えっ、何……言ってるんですか?」
意図がわからず、俺はそう呟くように言った。
……いや、分からないフリをしたかったという方が、正しいのかもしれない。――だって、勘違いじゃなければ、この人は今、俺を逃がそうとしているのだから。
そんなこと、される価値もないのに。
「そこに500万入ってる。俺の給料の半分だ。暗証番号は後で、美桜の携帯から連絡してやる。ただし5分たったら削除するからな。それぐらいあれば、金には困らないだろ。だから、早く逃げろ」
カードを俺の手の平に置いて、紅葉さんは言った。
「……何で、そこまでするんですか」
「――そりゃあするに決まってんだろ? 捨てて欲しくないんだよ、人生。お前を見てると、昔の自分を見てるみたいで吐き気がする。目障りなんだよ。美桜が寝たら、直ぐにここをでろ。……俺みたいにはなるな、絶対に」
ギロっと、睨むように俺を見つめて、紅葉さんは言った。
「でっ、でも、俺だけ逃げていいんですか。本当は、紅葉さんも逃げたいんじゃ……「言うな、それ以上。どうせ俺は逃げられない。逃げられたところで、行く宛もないしな」
俺の口を塞ぎ、紅葉さんは小声で、まるで何もかも諦めてるかのような声で言った。
「俺だって、……そんなのないですよ」
「フッ。それ、嘘だろ。普通、家がないとかだったら、もっと仕事のやる気出すだろ。それか、泣いたりとかすんじゃねぇの?
それなのに、お前は妙に達観してる。分かりやすいんだよ」
俺の頭を雑に撫でて、紅葉さんは言った。
「――下手くそ」
「……馬鹿じゃないですか。他人に、金なんか渡して」
涙を流しながら、俺は言った。