朧月
- 14:23 p.m. -
午後の業務に向かい始めて一時間ほど。急ピッチで胃の中へと押し込まれてしまった中身のせいで空のマグを手に取り、ちらほらと人の出入りする給湯室へと身体を滑り込ませる。
「お疲れ様、丹波さん」
ふと、頭上から舞い降りた音韻。焦がれるばかりだったその声で言葉を紡ぎ、優し気な面持ちで私を見下ろす課長と目が合った。
「課長、お疲れ様です」
内心とても驚いたのだけれど、努めて冷静にそう返す私。なんとか普通に出来ているはず。
正直、先程のCEOとの会話がとても気になっていて。けれど部下である私たちが不躾に聞いていい内容ではないからこそ、二人きりの空間で話したんだろう。
「少しだけ二人で話さない?」
そんなことばかりがぐるぐると脳裏を巡っていたから、課長の言葉を理解するのにワンテンポのズレが生じてしまって。
「っ、はい…!」
目を見張り、慌てて課長に続き給湯室をあとにする。どきどきと大きく鼓動する心臓をなんとか窘め、逸る胸をぎゅっと押さえて大きな背中を追った。