朧月



――バタン、と。午前中に課長がCEOと話したであろう応接室の扉を閉め、窓枠のブラインド越しに外を見つめる課長の斜め後ろで立ち止まる。

その瞳には、何が映っているんだろう。今課長は何を考えているのだろう。

いざ本人を目の前にしてしまえば、抗いようもない想いが内側から込み上げてくる。



「実はね」



振り返る課長。その視界に私が映りこむ。自分がどれだけ周囲を惹き付けて止まない存在かなんて、露知らず課長はいつも通り滔々《とうとう》と語り出す。








「――CEOから、新しく立ち上げる関西支社の所長として出向いてくれないか、って言われたんだ」







ガツン、と。頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が私を襲った。


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