朧月
「え、そ、そんな」
「CEOに、俺の部下を一人だけ連れて行っても良いと言われてね。丹波さん以外の人は想像が付かなかった」
「課長…」
じいん、と。込み上げる想いが胸を熱くする。まさかそんな風に言ってくれるとは思わなくて、再度膜を張って膨れ上がる涙がどうしようもなく頬を濡らした。
「それで、どうかな。関西でも傍で支えてくれない?」
自然に笑んでそう口にする課長は、どうせ私の心の中なんてお見通しなんだろう。
「ぜひ、よろしくお願いします!」
――ずっとずっと外すことの叶わなかった左手薬指の指輪。貴方と一緒に未来へ向かって行けるなら、きっともう大丈夫。
【終】