朧月
第一章
25歳、リスタート
- 7:30 a.m. -
残酷にも時というものは私の都合なんてお構いなしだ。
つい昨日受けた精神的大ダメージのせいで、正直会社なんて行きたくないのが本音。
けれど仕事をしなければ生きてもいけない訳で。
いや、寧ろ《寿退社》という近かったはずの夢が打ち砕かれたのだから、私は本来今まで以上に仕事に精を出さねばならない状況なのだけれど。
「……はぁ」
無理だ。早々に立ち直れるような、そんな日の浅い付き合いじゃない。
卓也とは大学在学中のハタチの時に出逢って、それから特に大きな喧嘩も無く順調な付き合い方が出来ていると思っていた。
日頃と特段違わず、カジュアルオフィスに身を包み全身鏡の前で一回転する。そして鞄を手に取ると、玄関先で黒のパンプスに足先を突っ込んで。
「行ってきます…」
誰も居ないワンルームの部屋に向かってポツリとそう告げ、私の気持ちのように重い玄関扉を開けて外に繰り出すのだった。