朧月
第二章
「ご飯、行かない?」
- 7:20 p.m. -
「……よし。これで終わりかな」
定時から1時間半ほど過ぎた頃。
トントン、とデスクで書類を整え呟いたのは有馬課長だった。
残業できたりする?――そう困ったように微笑んだ上司の言葉を断ることなんてできるわけがなく。
わかりました、と。
素直に頷いた私に安心したようにほっと息を吐いた有馬課長は、よろしくねと軽く手を挙げてバタバタと急ぎ足で会議室に向かって行った。それがお昼のこと。
「うん、大丈夫だね。ミスもない」
それを残業終了の合図と捉えた私も一度息を吐き出し体を伸ばす。
ポキッと体のどこからか音がした。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様。ありがとう。無理言ってごめんね」
この書類を作るのにどうしても丹波さんの手が必要でさ、と。
申し訳なさそうに苦笑をこぼす有馬課長に「大丈夫ですよ」と返した。