朧月
- 7:30 p.m. -
着いた先は会社の近く、少し路地に入ったところにあるお洒落なお店だった。
「適当に頼むけど嫌いなものはある?」
「いえ、特にないです」
「飲み物は?」
「あ、じゃあビールで」
私たちと同じように仕事終わりであろう女性客が多いこの店に、躊躇なく足を踏み入れた有馬課長。
垣間見える慣れた様子に、婚約者あるいは奥さんであろう女性を連れてこういうお洒落なところによく来ているのだろうかと無粋なことを思った。
そんなことを考えている間に、有馬課長はテキパキと注文を終えていた。……しまった。上司に注文させてしまうなんて。
しばらくして届いたビールグラスで、お疲れ様ですとお互いに言い合い軽く乾杯をした。
ザワザワと賑やかな店内。時折誰かの笑い声が耳に届く。
それが妙に切なくなって少しだけ目を伏せた。
「元気ないね」
――コトリ。
グラスを静かに置いた有馬課長が、顔の前で手を組んでこちらを見ていた。