朧月
第三章
赦されない恋心
- 10:32 a.m. -
いつも通りの朝礼の後、早速取り掛かった一つ目の業務を終えホッと一息。
既にカラになりかけていたマグを片手に、まだ人も疎らな給湯室に向かう。
「……、」
陳腐なインスタントコーヒーをふるった上からお湯を注ぐ傍ら、やはり思い出すのは課長のことで。
『元気出して、丹波さん。こればかりは時間が解決してくれるのを待つしかないけど…、これから運命の人に出会えるよ』
爽やかな笑みで有馬課長はそう言った。何だかネガティブな思考に支配されている私にはそんな課長の姿はとても眩しくて、思わず目を細めてしまった。
案外ロマンティックに励ましてくれた課長だけれど、その直前に落とされた言葉がどうも頭の中を駆け巡っている。
『俺も――』
あのとき課長は、
『―――…いや、なんでもない』
一体何を言いたかったんだろう。
もうとっくにお湯を注ぎ終えた濃い褐色に染まるマグ。その水面をただじっと見つめる私は、きっと周りから見たら奇怪以外の何物でも無かっただろう。
「お疲れ様、丹波さん。大丈夫?」
現に、こうして思い悩む対象である課長が姿を見せても気が付かないくらいなのだから。