そばにいさせて~クールなあなたとのセカンドストーリー⭐番外編追加⭐
「自分の好きなことをやればいい。こっちは心配いらないから」

祖父は敢えて明るく笑いながらそんなことを言っていたような気がする。

5年前のあの日のことはおぼろげな記憶。
私は店のカウンターの奥に立てかけていた生まれたばかりの私を抱いた父の写真をどうしてもそのままにしておけなくて、気がついたら燃えさかる店内に周囲の制止を振り切って飛び込んでいった。

結局命は助けられた私だけど、その日の恐怖が染みついている間はその記憶を思い出す場所からは離れた方がいいと医者に言われていたらしい。これは最近になって母から聞いた話だ。

そんなこともあり、卒業後は半ば無理矢理に東京で就職するよう言われ、外資系で天然素材が売りの小さな化粧品会社『ファルコン化粧品』に就職した。

燃え盛る店内で身動き取れなくなっていた私を助けてくれた人が一体誰なのか、未だに家族全員わからないまま5年の月日が流れていった。
命の恩人のその人に、一目会ってお礼が言いたいと思いながら、26歳になった今もまだその願いは叶っていない。


「よし!準備完了」

毎朝、鏡の前でショートボブの髪をさくっととかし、化粧は短時間で仕上げる。小さな目が少しでも大きく見えるようにアイラインだけは欠かさない。もっと時間をかけて化粧してないと紫外線にやられて40代でシミが増えるよ、なんて先輩には忠告を受けてるけど化粧をする時間があったらその時間は仕事に費やしたい。それくらい、やってもやっても私の仕事は溢れてくる。

グレーのパンツスーツに着替え、低めのパンプスを履くと急いで自宅アパートを出発した。

腕時計に目をやりながら、髪を振り乱して最寄りの駅まで走る。全く色気のない毎日。

私の担当業務は、化粧品のPR業。

毎日大量に送られてくる英文メールの翻訳、そして新商品の説明の翻訳と商社や小売店へのプロモーション企画なんかが私のメインの仕事だ。

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