嬉し涙を流す場所は。
自分が誘ったくせに父はその日
そばを頼まず1人だけうどんを頼んだ。
相変わらず空気の読めない人だと
思ったけど、家族の誰もが
その事には触れなかった。
うどんを美味しそうに食べながら
父は言った。そのそば美味そうだな。
母は言った。あなたも少し食べる?
父は首を振り、俺たちに告げる。
いや、どうも俺はそばアレルギーらしい。
そばを食べると胸が苦しくなると。
お袋は驚いていた。
そりゃあそうだ。
うちの食卓にそばがのぼる日は
何度もあった。でも父は
何も言わず、黙ってそばを
食べていた。その後に自分が
苦しむ事になったとしても。
いつから父は隠していたのだろうか。
心臓発作の事にしてもそう。
知っていたからこそ父は
俺たちには告げずに
いなくなったのかもしれない。