最愛~一夜の過ちから御曹司の溺愛が始まりました~

12、帰郷

『まもなく福井に到着します』
音楽と共にアナウンスが流れて、席を立ち、乗降口に向かう。
荷物は通勤バッグひとつだけ。
一刻も早く福井に向かわなきゃって思ってたから、家には寄らなかった。
壁に寄りかかりながら車窓の風景を眺めると、よく知った街が見えて来た。
それと同時にここで過ごした日々を思い出す。
常に孤独だった。
誕生日のお祝いなんてない。
私の誕生日は母の命日だったから、父と兄と私の三人でいつも母の墓参りに行き、家に帰ると父は『病院に行ってくる』と言って家からいなくなる。
兄も遊びに行ってしまい、家にポツンとひとり残されて……。
いつもリビングのテーブルの上に一万円が入っている封筒が置いてあって、それが父が用意した私へのプレゼントだった。
小学生だった時も高校生だった時も、その金額は同じ。
多分、父の財布には一万円札しかなかったんだと思う。
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