最愛~一夜の過ちから御曹司の溺愛が始まりました~
その言葉に胸を撫で下ろすと同時に涙が溢れる。
「……良かった。本当に良かった」
口元を押さえる私の肩を兄が躊躇いがちにそっと抱いた。



手術室から集中治療室に移った父の手を握り、報告する。
「お父さん、香澄です。福井に帰ってきました」
本人はまだ意識がなくて、聞こえているかどうかもわからない。
でも、声をかけずにはいられなかった。
「ずっと帰らなくてごめんなさい」
父の手を握ったまま謝る。
細く骨ばったその手にはいくつものシワが刻まれている。
ずっと仕事頑張って来たんだよね。
母が亡くなった悲しみを仕事に没頭することで忘れようとしたのかもしれない。
赤ちゃんだった私の世話をする余裕なんてなく、父方の祖母が家に来て面倒を見てくれた。
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