最愛～一夜の過ちから御曹司の溺愛が始まりました～

ひとりあたふたしていたら、まだ心の準備も出来ていないのに通話ボタンに触れてしまった。
『香澄？』
慧の声がしてドキッ。
何を言えばいい？
頭の中は真っ白で何も浮かばない？
黙ったままでいると、彼は続けた。
『お父さん、意識が戻って良かったよ』
その言葉に、緩んでいた涙腺がさらに緩んで涙がスーッと頬を伝った。
「……うん」と返すのがやっとの私。
『あまり寝ていないと思うけど、しっかり食べているのか？』
その優しく温かな声音を聞いて、彼に会いたいって思った。
会ってギュッと抱き締めて欲しい。
でも、東京にいるし……それに、彼は藤井さんと婚約するかもしれない。
……無理だ。
急に心が暗くなる。
でも、できるだけ笑って話そう。
彼に変な心配をかけたくない。
「食べてるよ。私まで倒れちゃいけないと思って、ちゃんと三食食べてる」