隠れたがりな君には、明け透けな愛を。ー番外編追加しましたー
「うっ、うわあああああああああああああああああああああああああああああああ」
思いっきり噛んだ。
男の舌を。
男が痛みに嘆いた隙をついて膝で思い切り男の腹を蹴り、男の体の下から抜け出す。
「ぅああああ…」
男が口と腹をおさえながら倒れこむ。
──逃げろ。
もつれそうになる足を死ぬ気で動かしながら死ぬ気で走った。
口に血の味が広がって生臭い。あの男の血液が口の中に充満しているのだと思うとたまらない。さっきまで乱暴されていたせいで腰が信じられない程に痛い。
──それでも堪えろ、走れ走れ走れ走れ。
もっと速く。速く。
もしも、
もしも倉庫の扉の鍵が閉まっていたら。
絶望の兆しと不安と懇願に押しつぶされそうになりながら体当たりするように押した扉には、鍵はかかっていなかった。
倉庫の扉に鍵がかかっていなかったのも、足の縛りを解かれていたのも、不幸中の幸いだった。