隠れたがりな君には、明け透けな愛を。ー番外編追加しましたー

絶対に言えないと思った。
私だけが。私だけが我慢すればそれで。



そんな張り詰めた生活の中で、湊人だけが心の支えになっていった。
湊人はどうして梨架じゃなくて私を選んだのだろうとか、梨架と比べて欲しくないなんてそんな悩みはストーカーの恐怖に上書きされてかき消されていた。そんな事を気にしていては心が持たないと潜在的に悩みをのみこんでいたのかもしれない。

思い返すと後悔してもしきれない愚行だが、
所構わず湊人にキスをねだる事もあった。

嫌だっただろうに、湊人がそれを拒む事は一度も無かった。
私がお願いすれば、湊人はいつも優しいキスを返してくれた。




結局ストーカー被害の事を誰にも相談しないまま半年が過ぎた。
いつの頃からか帰りが暗くなるのが怖くてサークル活動からは足が遠のいていたが、そろそろ顔を出した方がいいと、たまたまその日思いたった。

いつも自分達が使っていた教室の扉の前まで来て、足を止めた。


「湊人君ってさぁ」



教室の中の話の話題に恋人の名前が上がったら教室に入るのを躊躇うのは普通の事だろう。それも軽い会話をするトーンでないならなおさらだ。
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