イメージ通りじゃない彼と、ときめくリアル恋愛
彼は呆気に取られてる私の側に来ると、「もう一回やる?」と顔を覗かせ、「無心になってボールを打てば、嫌なことも忘れられるぞ」と付け加えた。


私は無言になって彼の顔を見上げる。確かにボールに集中してる間は学校での出来事も忘れ、何も考えずに済んでいた。


「うんっ、もう一回やってみる!」


胃の痛みも忘れて部屋に入ろうとする私を彼は呼び止め、自分も一緒に入るとバットの振り方を丁寧に指導してくれ、最後までボールから目を離すなよ、と注意した。


「それさえ気をつけてれば、必ず向こう側に飛んでいくから」


ピッチングマシーンの上を指差す彼に頷きを返してベースの脇に立った。

来るなら来い!と構えるとボールがポンと放られてきて、私はとにかくずっと、ボールから目を離さずにバットを振り続けた。



二度目の二十球を打ち終えた結果は、さっきよりも少しだけマシだった。
何度かバットにも当たったし、一度だけどネットに向かって飛んでいった。


「よく頑張ったな」


部屋を出ると、ポンと頭の上に手を置く今泉君。
ヨシヨシ…と言いながらきゅっと頭を抱え込み、さらっと髪の毛を撫でてくる。


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