恋は思案の外
バレンタインのチョコくれよ





──なんだろうこの雰囲気。



眼前に広がる並々ならぬ甘ったるい空気に、わたしは思わず内心毒づいた。

勤め先であるスーパーにいざ足を踏み入れて数分後。同僚たちだけにとどまらず、店長からも進行形で向けられている物欲しげな視線が邪魔で邪魔で仕方ない。

まあ、わたし以外の女って言ったらオバチャンくらいだし、しょうがないのかもしれないけど。




「はい、出勤しまーす。店長様たいへん邪魔ですので退いてください」

「なにその慇懃無礼な態度!?」

「いんぎん…?なんですか?」

「いやもう、別にいいんだけどね…。最初からもらえるなんて思ってないしね」




背中を丸めてとぼとぼ帰る(あれ?どこかで聞いた文句だぞ)店長を見て若干良心が痛んだわたしは、「奥さんからもらえばいいじゃないですか」と小さな声で反論する。

別に聞こえていなければそれはそれでいいか、なんて思って声を発したのだけれど。




「…そこでもらえないから鳳さんにお願いしてるんじゃないか…」




まさかさっきの言葉がトドメになってしまうなんて。予想だにできない事態である。

でも、ふーん、そうか。店長の奥さんは思いの外Sキャラらしい。

しかしながら、だからと言ってわたしがあげると思ったら大間違いなのだ。




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