恋は思案の外
「お客さんからもらってください。わたし、既婚者には興味ないので」
「えええ、そんなぁ!じゃあ鳳さんは誰かにあげる予定なの!?いいじゃない、僕にくれたって…。も、もしかして浬さんとか」
「無いです。ハッキリ言いますけど、それは絶ッ対にあり得ませんので。では」
シャキンと片手をあげ店内へと続く扉を潜り、未だ後ろから聞こえる店長の嘆きを扉を閉めることで遮断した。
…て言うか、皆して何なんだろう。わたしに集(たか)ったところで、お目当てのものがもらえるなんて考えるほうが可笑しいんだ。
──今日は2月14日。巷で人気のバレンタインデーである。
そういう理由からか、店内にはハートのポップがこれ見よがしに飾り付けられていて。溢れんばかりのそれが、このスーパーを利用するごく少数の若い女性の胸をときめかせているらしい。
ちらりと視線を動かせば、開店して間もないというのに焦った面持ちで商品を吟味しているOLらしき人の姿も。
ああそうか、もう当日だから焦っているのか。早く会社に行ってお目当ての相手に渡さなくちゃいけないもんね。
早速レジのほうへと足を進めるも、相変わらず突き刺さってくる物欲しげな視線の数々。
……あげないよ。そんな、捨てられた子犬さながらの瞳で見てきたって無いものは無いんだから。