恋は思案の外



「あとさー、もういっこ。あンだよな」

「え、な、」


――なに。

小瓶を見ていたその顔を思わずあげた。
他にもあるの?……そう言いたかったのだけれど。


それが失敗だった。

自身の顔に、ふとヒト科の影がかかる。
ニヒルな笑みが、瞳の端に映った。

わたしの頭の中で警報が鳴る。
これはダメだと、何かが告げている。


でも、もう、遅い。








―――――…ちゅっ。



左頬に、柔らかな感触。

状況を読み込めないまま、感触のあった左頬にそっと手を当てること数秒。



「…………」

「ごちそーさま。」



え?なに?

わたし いま ほっぺに キス された ?



口をぽかんと、情けなく開けているわたしの前に。
満足そうに、そして悪戯に笑うヒト科がいる。



「お姉さん、ほっぺた柔らかいね」



いやー、若いっていいわー、なんて。
ヘラヘラしているヒト科にわなわなと震える自身のカラダ。

拳をぐっと握り、思い切り振り上げた。
その様子をアホ面で見ているヒト科のお腹に。



「―――――ンの…、」

「え? なになに」

「変態がああああああ!!!!!!!!!!」

「え、ちょ、待っ、お姉さ、 ぐッッは――…!」



持ち得るすべての力を込めたわたしのグーパンチに沈む奴の姿を、事務所の入り口でアワアワと見つめる店長がいたとかいなかったとか。









     お返しはあまいあまい
 
 (キラキラと光る小瓶と、それから、)



        * imu



< 113 / 132 >

この作品をシェア

pagetop