恋は思案の外
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それから30分後。
ぼうっとしていた私は、店長に「あがっていいよ」と言われるまでずっとこれからのことを考えていた。
何故かニヤニヤしている店長を尻目に、私は溜息を吐きながら更衣室兼荷物置きの事務室へと向かう。
向かう途中の店内に男の姿は見当たらなかったから、きっと事務所に我が物顔で居座ってるんだろうなあと確信を持ち、また溜息が零れた。
事務所のドアは少し開いていた。
不用心だと店長を心で睨みながら、音を立てないようにこそりとドアを広く開ける。
と、目に飛び込んできたのは、その男の全体のシルエット。
事務室唯一の窓のサッシに立ったまま右膝を付き、横顔で煙草を吸う姿が、やけに官能的で。
目にかかった少し濡れた黒髪だとか、遠目でもわかる動く喉仏だとか、薄く開いた唇だとか、そういうの。
ちょっと、クラリとする。
「、」
それからはっと息を呑む。
え、待って。 わたし何考えてんの?
あ、あぁ、そうだ。事務所のドアが開いていたのは換気の為だったのかもしれない。
なんて、自分を誤魔化すようなどうでもいいことを考えた。