恋は思案の外
笑えない。笑えないよオマワリさん……。
て言うか、もしかして一緒に居るわたしにまで火の粉が飛んでくるんじゃないの?
「ビールとカップ麺しかないの?」
そうなったら真っ先に逃亡してやる、なんて決意を胸に居間へと戻ったわたしは男に声音を向けた。
そんな此方の様子を一瞥したヒト科はと言うと、敷かれた畳の上で横になって今し方ほじっていたらしい鼻くそをティッシュに拭っていて。
汚いよ。それ、わたしに付けるのだけはやめてよ。
最早突っ込んだら負けだ(ポイントが多すぎてどこからツッコんだらいいのか分からない)、なんて所感を抱いたわたしはその光景をスルーし返答待ちに徹する。
そんな男に平気でべたべた触れている子どもの勇気にアッパレである。将来大物になるに違いない。
「あ、カップ麺あった?」
「あった?って。寧ろそれしかないよ」
「ああ。パチンコの景品かー…うん、無ければそれしかないかもしんね」
「どうやって生きてるんだ、アンタ」
こんなことならスーパーで何か買ってくれば良かったよ。
今わたしたちが居るのはオンボロなチャリンコ屋さんの二階だ。
一階は殺風景なコンクリートに覆われ、二階は畳に覆われた床とクリーム色の壁に囲まれている。
風が吹く度にガタガタと揺れる感覚はきっと勘違いでは無いだろう。
外の大嵐を思い出す。明日になってこの家が潰れてた、なんて想像は妙に現実味を帯びていて笑えない。