恋は思案の外






尚もテレビ画面を見てゲラゲラと笑い転げる駄目な大人とアッパレな子供を死んだ魚のような眼で見つめ、少なくなったジュースを継ぎ足そうと腰を上げた。

ヒト科が先ほどスーパーにて購入した紙パックのジュース(98円)もそろそろ終わりを迎えそうである。





――――と、


「あ、母ちゃんだ」





ポツリと何気なく吐き出された子どもの台詞に愕然とした。

え、え?母ちゃんってことは……。


辿るように視線をユウヤだかユウタだか(わたしも覚えられていない)の目元へと向かわせれば、その視線は自らのものらしいケータイに注がれていて。

て言うか子どもの癖にケータイって!しかもそれスマホじゃない?わたしが初めてケータイ持ったのなんて中学入ってからですけどォ!





そんな見当違いな思考で脳裏を占拠させるあたり、わたしの現実逃避具合も甚だしく。






「迎えにくるって」

「おー、そうか。良かったな」








のんびりと返答を向けるヒト科にも愕然としたことは事実で。

なにのんびり返事してんの?は?バカなの?あ、うんバカだったね知ってる。


………って、そうじゃなくて。






「(逮捕される訴えられる誘拐犯だと思われる……!)」







母ちゃん直々に此処に来られる(最早敬語)ってことは、だ。

文句のひとつでも付けてやろうってことじゃないの?え?絶対そうでしょ!


「あの子最近どこ行ってるのかしら」なんて疑問に感じてここに来て初めて、「ウチの子に店番!?何させてんだゴルァッ」って憤怒に塗れるパターンに違いないでしょうよ!








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