恋は思案の外
「やりぃ、ラッキー」
「めんどくせぇから忘れ物すんなよ」
「はーい」
尚もほのぼのとした応酬に花を咲かせる両者が信じられない。
唯一正常な人間であるわたしは、最早白目をむきすぎて転倒し床に後頭部を強打しそうである。
ごうごうとこの家を揺るがす強風のみがこの常人的思考に相槌を打ってくれている気がして、今すぐ外に飛び出したくなったことは秘密だ。
と、そのときだった。
――――ピンポーン
「お、来たなユウタ」
「ユウヤだって!」
「おー、悪い悪い」
「思ってねえだろ!くっそー」
魔 の 時 間 襲 来 。
思わずそこらにあった埃だらけのクッション(恐怖に呑まれて細かいことを気にする余裕が無い)を腕尽くで抱きしめて部屋の隅へと猛ダッシュ。
そんな、生まれたての小鹿さながらのガクブル具合なわたしに全く気付かないらしいヒト科と子ども。
建て付けの悪い戸をガラリと開けて二人が出て行った瞬間を見計らって舌打ちをかまそうと思ったものの、予期せず子どもが戻ってきたことでその計画は粉砕された。
「ねえねえ、おねーさん」
「はい?」