恋は思案の外
「さっき聞いちまったんだよなー、可愛いじゃん。名前も」
「………ッ、」
「そうやって赤くなるとこも可愛い。―――……なぁ」
駄目だ。この姿勢は駄目だ、いつものわたしじゃいられなくなる。
耳朶に直接送り込まれる囁きに翻弄されて、身体の芯から揺さぶられて、甘い痺れが背筋を駆け上がってくる。
尚もごうごうと呻る風だけが、何度もわたしを現実へと引き戻してくれて。
――――でも、
「彼氏。いねえんだろ?」
被せるように零された低い声音と、耳たぶを刺激する歯の感触に全く声が出ない。
別に強く拘束されている訳じゃないことは、分かってる。
でも全身の力が抜けてしまったみたいに、まるで金縛りにでも遭っているかのように。
「―――………待っ……!」
そうして非力な言葉をおとすことしか、今のわたしには出来そうになくて。
「あ」
「は?」
突然のことだった。
今まで信じられないほどガッチリと拘束していたわたしの腰から腕を離すや否や、ヒト科はオンボロソファー目掛けて突進していく。
あれだ。所謂赤ちゃんの特技"はいはい"を敏速スピードで繰り出し始めたのだ。