恋は思案の外
「俺としたことが…、お姉さんのことすっかり放置してた……。」
「は?」
哀しい顔をしてそう言ったのかと思えば、次の瞬間には。
「寂しかっただろ? ごめんな」
「どっかの海に沈んで死ね。」
――…ニヤリ。
厭らしく上がる口端がわたしにはばっちり見えたんだからな!
「俺が死んだら泣くクセに~」
「何でだよ!泣かねぇっつの!調子乗んなハゲ!」
「俺癖毛だしふさふさだっつーの」
口をむうっと尖らせてぼっさぼさ伸び放題な癖っ毛をガシガシと乱暴に掻く奴に、部屋の隅で体操座りをしたままシャーッと威嚇をするわたしに。
「猫みてぇ」
元々だらしなく垂れている瞳をもっと垂らせ、口を豪快に開けてカラカラと心底楽しそうに笑う、から。
何故かじっと見ていられなくて、少しだけ熱くなった顔をふいっと背けた。
「まあまあ、子猫ちゃん。そんなに威嚇してないでこっちにおいで」
そんなわたしにさらに笑いながら、ソファーの上に乱雑に置かれた何だか薄汚れた和柄の座布団をポンっと叩く。