恋は思案の外



……なんか埃が舞ったような気がするんだけど。



でも畳の上で長いこと体操座りをしていた所為で、いい加減お尻が疲れていたところだ。


この際舞った埃なんて気にしないで堂々と座ってやろう、と徐ろに畳から立ち上がったとき。




――ふらり、と。立ち眩みがした。





元々貧血気味のわたしだからこんなことは頻繁に起こるし、その瞬間だって「あぁ、まただ。」くらいにしか思ってなかったけど。



「危ねぇ……!」



何故だか慌てる男の片腕に易易と支えられてしまえば。



「大丈夫か?」

「え? あ、う、うん。いや、ただの立ち眩みだしいつものことだし何ともないし」



嫌ってほど饒舌になってしまうのは、嗚呼、何でなんだろう。



「お前、軽すぎだ。ちゃんとメシ食え。」



ひとの身体いつまで触ってんだ、とか。お父さんみたいなこと言ってんじゃないよ、とか。


言いたいことは、きっと幾らでもある筈なのに。





――お前。



少しだけ距離の近いそんな言い方をされたことが、耳で木霊して離れなくて仕方がない。



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