恋は思案の外
背中を押されてダイブしたソファー。
少し横になってろ、と言い放った男はソファーを背にして座り込む。
だけど、どうしても。
わたしの下敷きになってしまった、男の趣味でないだろうその和柄の座布団が妙に気になって。
「この座布団どうしたの」
その広い背中に問いかければ。
「近所のばあさんに貰ったんだよ」
――俺の為に、手作りなんだと。
そう言って少し迷惑そうに笑ったその姿は、慈しみに溢れている気がした。
「ふうん。」
案外素っ気無い声が出て“しまった。”と思ったけど。
そう言ったわたしを男はちらりと振り返り、「あぁ。」――何かに納得すると、したり顔になる。
「別に特別な奴から貰ったとかじゃねーから安心し――」
「疲れた。寝る。」
「え。寝るの。お姉さん寝ちゃうの」
「おやすみ。」
近所のおばあさんが男の為にプレゼントしたもの。
手作りのそれをわたしが下敷きにしてしまって申し訳ないと思ったけれど。
おばあさんの気持ちとか、男が意外とそれを大切にしていることとか。
「はいはい、おやすみ。」
すべてが無償のやさしさで包まれていて、とても気持ち良くて。
「おやすみ、 いろは。」
心に広がるぽかぽかとした温かさに、わたしは自然と身を委ねた。